2022.05.23 02:16番外編ss/鏡の中の、足が生えた蛇台本「鏡の中の顔のない女」の番外編ショートショート。水城先生と木下が仲良くしてるだけ。「こんにちは、先生」「また来たんですか、文香さん」「やだわ、木下と呼んでくれと言っているでしょう」女は笑って、診察室の椅子に腰をかけた。『もうこないだろう』なんて、どの口がいったのだろうか。あの衝撃的な暴露の後、木下京香改め、木下文香は堂々と本名で予約をとってきた。水城先生がお暇な時間帯におねがいします、との一言もつけて。「嫌がらせですよ」「わかっています」文香はくすりと笑うと、私の手に自分の手を重ねてくる。「これが先生の親しみの表現ですのね?小学生みたいで可愛らしいですわ」「やめてください」彼女の手をふりはらい、カルテに向きなおる。仕事、仕事、これは仕事だ。呪文のよ...
2022.05.19 06:49番外ss/或いは貴方が望んだ夢台本「アフターナイトは土の下」と台本「だって金魚がおしえてくれた」の番外編ショートショート。時系列的にはアフターナイトのその後。だって金魚の本編前。西井視点の話。——病院は苦手だ。あの子を思い出すから。「もう、西井さん。この時期に風邪でぶっ倒れるとか、ホント勘弁してくださいね~おかげでスケジュールつめつめですよ!」「いいじゃないか、いつもは僕だって君の我が侭聞いてるだろ」「我が侭じゃなくて依頼ですってば!ったく、最後までこの調子なんだから……」秋も近づく夏のおわり。僕は風邪をこじらせて病院に運び込まれた。当然仕事をしている状態ではなく、かかえていた3本の連載はできあがっていた2本を除いて休止し、依頼をうけていたコラムも、見舞いがてらやってきた編集者にせ...
2022.05.19 05:31番外ss/可愛い貴方に癒えない傷を台本「アフターナイトは土の下」の番外編ショートショート。エリカ視点のその後の話。ずっと、何処で終えるか考えていた。どんよりと闇に沈んだ空。夜明け前が一番暗いとはよくいったもので、街頭もない田舎道では伸ばした手の先も曖昧だ。きっと、私が昔のままの私だったら、道半ばで諦めていただろう。否、『昔のままの私』だったらこんな苦労をする必要もないのだが。皮肉である。「ふふ、先生は今日も礼拝堂にきていらっしゃるかしら」そうだったらいいな、と思う。そうであればいいと心底願う。来ない私を思って、どこまでもいつまでも未練がましく待っててほしい。その為に噛みついたりしたのだ。あ、でもはしたない子だと思ってないかしら。それで愛想つかせちゃったりして。初対面で胸をさわらせちゃっ...
2022.05.19 04:46番外ss/鈴木あやめは殺してない台本「駒井みどりはころされた」の番外編ショートショート。『鈴木あやめは殺してない』「ありがとう、あやめちゃん」駒井みどり。初めて彼女を認識した時、彼女はそう、私に言った。きっかけはなんていうことない。落とし物を拾ったとか、次の授業を教えたとか、そこらへんのこと。ただ、そのなんていうことないことを、彼女は本当に嬉しそうな笑みを浮かべて、私に感謝した。砂糖菓子のような女の子、ってあーいう子のことを言うんだろう、と思った。……そして、彼女は『使える』とも。当時の私は、始めた「事業」が上手く回らず「商品」の仕入れに悩んでた。彼女を上手く「商品」にすることができれば、より「顧客」が捕まえられるのではないか。そう考えた。――近づいてみれば、駒井みどりは、本当に砂糖...