台本「駒井みどりはころされた」の番外編ショートショート。
『鈴木あやめは殺してない』
「ありがとう、あやめちゃん」
駒井みどり。初めて彼女を認識した時、彼女はそう、私に言った。
きっかけはなんていうことない。落とし物を拾ったとか、次の授業を教えたとか、そこらへんのこと。
ただ、そのなんていうことないことを、彼女は本当に嬉しそうな笑みを浮かべて、私に感謝した。
砂糖菓子のような女の子、ってあーいう子のことを言うんだろう、と思った。
……そして、彼女は『使える』とも。
当時の私は、始めた「事業」が上手く回らず「商品」の仕入れに悩んでた。彼女を上手く「商品」にすることができれば、より「顧客」が捕まえられるのではないか。そう考えた。
――近づいてみれば、駒井みどりは、本当に砂糖菓子のような女だった。
ふわふわと夢の中にいるような、現実感のない言動。綿菓子でもつまってるんじゃないかというくらいのお気楽な頭。無意識に人を顎でつかうことに慣れた、お姫様気質。
彼女に取り入ることは実に簡単で、あっけないほどたやすく「商品」に仕立てられた。
別段舌を回す必要も、特別な「お願い」をする必要も、何もなく、彼女は私に従った。
「あやめちゃんのいうことなら間違いないね」っと。
……なぜだ?
なぜ無条件に人を信用する?なぜそんな笑みを私にみせる?お前もよごれてるくせに。私と同じ汚い人間の癖に。なぜ?なぜなんだ?なぜなぜなぜなぜ……なぜ?
「あやめちゃん、ありがとう」
——駒井みどりは、そう言って笑う。いつもそうだった。
……だから彼女が自殺するはずない。「仕事」で悩んでた、なんてそんなはずない。私がみどりを殺した、なんて——そんなこと、あるわけないわ。そうでしょう?先生。
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