台本/初恋は綺麗に終わらない(男1:女1)

〇作品概要説明

主要人物2人。ト書き含めて約6000字。

子どもの頃出会った狐の神様に中年になってから再会する話。ラブの気配がするコメディ。


〇登場人物

高尾:男。親の介護のため帰郷した。パチで借金がある。独身無職。家事手伝い

お狐様:美少女に化けてる。


〇ご利用前に注意事項の確認をよろしくお願いいたします。

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作者:七枝




本文


※Mはモノローグ。

高尾:(M)神さまと遊んだことがある。

お狐様:おや、どうしたんだい少年。

高尾:(M)その神さまは、狐の耳と立派な尾をもつ少女の姿をしていた。

お狐様:そんなに泣くと、目ん玉がこぼれてしまう。

高尾:(M)白く温かな手が離れがたくて、あたりが真っ暗になるまで一緒にいた。

お狐様:そうか。おうちにかえりたくないか。仕方のない子だなぁ

高尾:(M)帰れという彼女に、嫌だと何度もすがって泣いた。

お狐様:いいのかい?もしかしたら私は子どもを騙して喰らう悪い狐かもしれない。

高尾:(M)それでもいい。傍にいてとぐずる自分に、彼女は約束をしてくれた。

お狐様:そうだなぁ、もし君が大人になってもこの村にいて、他に良い人もいないのなら―……

高尾:(M)そんな、遠い夏の記憶。うだるような熱い夏の、初恋の記憶を、こんな夜は思い出す。


〇間をおいて。夏祭りの夜。神社本殿裏でタバコに火をつける高尾。


高尾:(大きく煙を吸い込んで一服)

お狐様:いけないんだ、神社でタバコ吸ってる!

高尾:ああ!?

お狐様:きゃー!おじさんこわぁい!

高尾:うるせぇ、ガキは金魚すくいでもしてろ!

お狐様:友達とはぐちゃったんだもん。

高尾:迷子センターに行ってこい。

お狐様:ねぇ、おじさんはお祭りのボランティアさん?ここでサボってていいの?

高尾:しっしっ、あっちいけ。

お狐様:おかーさぁん!ここでタバコ吸ってる人が(高尾に遮られる)

高尾:やややめろ、お嬢ちゃん!ほら、千円やるから屋台でも回って来いよ。な?

お狐様:え~千円だけ?

高尾:たかる気か、クソガキ。

お狐様:これじゃたこ焼き1つしか買えないよ。

高尾:十分だろ。

お狐様:おかーさぁん!タバコ吸ってサボってる人がぁ!

高尾:(舌打ち)ほら。


〇高尾、もう1枚千円札をだす。


お狐様:へへ、毎度。

高尾:さっさと行ってこい。

お狐様:うん、美味しいイカ焼き買ってくる。

高尾:へいへい。

お狐様:またね、おじさん。

高尾:……またね?


〇少し間をとって。


お狐様:あ、よかった。おじさんまだいたね。

高尾:……あん?

お狐様:ほら、たこ焼き分けてあげる。

高尾:あげるって……それ俺の金だろ。

お狐様:イカ焼きのほうがいい?美少女の歯型付き。

高尾:いらねぇよ。全部お前が喰え。

お狐様:いいから食べて!ね!(無理やり高尾の口にたこ焼きを押し込む)

高尾:(熱がってはふはふ言う)お前なぁ……!

お狐様:おいし?

高尾:(溜息)

お狐様:おいしい?

高尾:……まぁ、そこそこだな。祭りの味。

お狐様:うんうん、お礼はいいよ。喜んでくれただけで十分!

高尾:どこに目ついてんの?

お狐様:ココ!

高尾:…………

お狐様:なに、まじまじと人の顔みて。美しすぎて驚いちゃった?

高尾:いや……あんたどっかで会ったことあったっけ?

お狐様:ナンパ?

高尾:そんなわけあるか。年の差考えろ。

お狐様:おじさん、私の事おぼえてないんだ?

高尾:はあ?

お狐様:私、おじさんのこと知ってるよ。湯河さんちの高尾ちゃんでしょ。

高尾:んなっ……!

お狐様:村のおばさん達が噂してた。湯河の坊が帰ってきたって。湯河さんとこ、もう長くないから看取りに来たんだろって。

高尾:…………あっそ。

お狐様:あと東京で失敗したらしいって。保険金狙いってほんと?

高尾:これだから田舎は……!

お狐様:ひひひ。

高尾:くそ、好き勝手に噂しやがって!

お狐様:しょうがないよ、みんな暇してるんだ。

高尾:もういいからお前帰れよ。母親が近くで探してんじゃないのか?

お狐様:そんなのいないよ。

高尾:は?だってさっき……

お狐様:へへ。

高尾:……こっのクソガキがっ!どこんちの子だよ!文句言いにいってやる。

お狐様:ここの子。

高尾:どこだ!

お狐様:だから、こーこ。

高尾:神社?

お狐様:うん。

高尾:禰宜(ねぎ)さんちの子かよ。

お狐様:そんなとこ。

高尾:げぇ、あの爺苦手なんだよな。

お狐様:良い人だよ。よくおまんじゅうくれる。

高尾:ふーん、孫には甘いのか…………ここの息子帰ってきて神社継いだんだな。知らなかった。

お狐様:継いでないよ。

高尾:ん?

お狐様:それで、高尾ちゃんはなんで帰ってきたの?

高尾:ちゃん付けやめろ。

お狐様:ねぇねぇ、なんで?

高尾:噂聞いたんだろ。

お狐様:本人の口から真実を聞きたいの。

高尾:あ~……だから介護だよ。噂知ってんなら、わかるだろ。うちの親父がボケてんの。

お狐様:おじさんとこって親子仲最悪だったじゃん。

高尾:これから田舎の暇人はっ!

お狐様:嫌いな親の為に帰ってきたの?

高尾:…………

お狐様:それとも財産目当てってやつ?

高尾:失礼だぞ。

お狐様:いいじゃん。私とおじさんの仲でしょ。

高尾:初対面だろ。

お狐様:ひひひ。

高尾:湯河に当てにするような財産なんざねぇよ。ただでさえも少ない財産、じじいの医療費で目減りしてんのに。

お狐様:じゃあなんで?

高尾:……後悔したくないから。

お狐様:後悔?

高尾:ガキにはわかんねぇかもしれないけどな、大人になったら後悔することがたくさんできんの。あの時ああすればよかったかもなぁとか、こうすればもっといい結果だったかもしれないかもなぁとか。そういうの1つでも減らしたいから帰ってきたの。

お狐様:ふーん?

高尾:わかんねぇだろ。

お狐様:うん。もっと好き勝手に生きればいいのに。

高尾:それができたら苦労はしないさ。

お狐様:ただでさえも人の子の人生は短いのに、どうして君たちはそんなに生きづらいのだろうね。

高尾:あ?生意気なこといいやがって。お前が何を知ってんだよ。

お狐様:知ってるもーん。この村のことならなんでもご存じ!無敵に素敵な白狐(びゃっこ)ちゃんとは私のこと!

高尾:なんだそれ。流行ってんのか?

お狐様:あとおじさんさ、ちょっとカッコつけたでしょ。本当は借金で逃げてきたでしょ。

高尾:ぐっ

お狐様:ギャンブルはだめだよ、ギャンブルは。村にパチンコなくてよかったね

高尾:うっせぇ!喰い終わったなら散れ!消えちまえ!

お狐様:へ~え?そんなこと言っていいのかな?

高尾:なんだよ。タバコならもう始末したぞ。

お狐様:ふっふっふ……じゃーん!

高尾:それは……!なんでガキが酒もってやがる!

お狐様:自治会長さんがボランティアさんに配ってたやつ、かっぱらってきた。

高尾:よこせ。

お狐様:あれあれ?それが人にものを頼む態度?

高尾:ボランティアに配ってたなら元々俺のだろうが。

お狐様:おじさんサボりマンじゃん。

高尾:ここに来るまでは働いてたつうの。

お狐様:うーん……仕方ないなぁ。温情をくれてやろう。

高尾:正当な権利だ。


〇高尾、ビールの缶をうけとり蓋をあける。


高尾:あ~うめぇ。このために生きてる。

お狐様:ふふ。

高尾:なにがおかしい。

お狐様:かわいいなって思って。

高尾:は……?それ、俺に言ってる?

お狐様:あれ、照れないの。

高尾:お前に言われてもなぁ。

お狐様:まあ確かに?私の方が君より数百倍かわいいのは真理だけども。

高尾:盛りすぎだろ。

お狐様:君はかわいいよ。ちゃんとがんばってるし、ちゃんとかわいい。

高尾:はあ……そういう上からムーブはやってんの?おじさん、若者のことなんもわかんねぇわ。

お狐様:そうやって何もかも既存の枠にはめようとするのよくないよ。だから高尾ちゃんモテないんだよ。

高尾:ちがいますぅ~いい人と出会うタイミングがなかっただけですぅ。

お狐様:出会ってたら結婚してたの?

高尾:そりゃそうだろ。

お狐様:……ふーん。

高尾:なに不機嫌になってんだよ。

お狐様:べつにぃ。おじさんのくせにおこがましいなって思っただけ。

高尾:おまえなぁ。

お狐様:どうせ高尾ちゃんはこの村のことなんて忘れてたんだろ。親父さんのことがなかったら帰ってこなかったんだろ。

高尾:……あんた、この村が好きなんか。

お狐様:当たり前でしょ、私の村だもん。

高尾:そうか。俺は嫌いだった。

お狐様:……そう。

高尾:噂でどこまで聞いたかしらねぇが、うちの親父は酒飲んだら暴れるクソ親父でさぁ。母さんはいつも泣いてるし、金はねぇし、そのくせポンポン子供産むから兄弟はやたら多いし。近所のヤツらは見下してくるし、教師共は無視だし。クソだと思ったね。俺の人生クソだらけだ。15の時にここ抜け出して上京して、ようやく俺は解放された。

お狐様:……きみたち湯河の兄弟は、大きくなったらみんなこの村をでた。

高尾:ああ。

お狐様:そして、紗智子さんが死んだときも、君以外誰も帰ってこなかった。

高尾:母さんのことも知ってんのか。

お狐様:田舎だからね。

高尾:ああ……そういう野次馬根性も大っ嫌いなとこのひとつだ。

お狐様:…………

高尾:弟たちは誰一人としてここに帰ってきたがらなかった。そりゃそうだろうな、いい思い出なんてひとつもないだろうし、娯楽も未来も特産品もなにもない。いずれ潰れるのを待つだけの限界集落だ。今日の祭りだって市のクソ少ない補助金をクソじじい共が村の伝統だなんだのいって、無理やり引っ張ってきたようなもので、本来この村にそんな予算は、

お狐様:……ぐすっ

高尾:……え、泣いてる?

お狐様:そんなにクソクソ言うことないだろ……

高尾:あ、いや。えーっと、ク、クソじゃないとこもあるぞ!

お狐様:たとえば?

高尾:え?

お狐様:この村のいいとこ!たとえば?

高尾:あ~……空気がおいしい?

お狐様:もっと!

高尾:緑が多い?農家多いから米と野菜に困ったことはねぇな。あとはえーっと……パチがないから借金が増えることもない。

お狐様:それ以外は?

高尾:それ以外……?あるか?

お狐様:あるよ!たとえば向井さんが、裏山でとったよもぎで作るよもぎ餅は絶品だし、河井ちゃんのとこは5反の段々畑でレモンを栽培してるから、収穫期はそれはもう見ごたえがあるんだ!最近は坂上さんちの坊が古民家カフェとやらを始めて、順調に軌道に乗り始めてる。村の南側の小川では毎年よく肥えた鮎が釣れるから、県外からわざわざよそ者が来ることもあるよ。それに、それにこの村の夏祭りは、昔から村人が大切にした祭りで……(徐々に涙声になる)

高尾:…………

お狐様:それはもう、たくさんの人が集まる素敵な祭りだったんだ……

高尾:……なんか悪かったな。

お狐様:(鼻をすする)

高尾:本当にこの村が好きなんだな。

お狐様:うん。

高尾:正直に好きって言えるのってすげぇよ。おじさん、そういうの気恥ずかしくてさ、悪口ばっか言っちゃってごめんな。

お狐様:……いいよ。この村が君にとって、良い場所でなかったのはわかる。

高尾:まあな。

お狐様:でもこの村に良い人も良い場所もあるんだ。それも本当なんだ。君が気づかなかっただけで、君たちを助けようとした人もちゃんといたんだよ……

高尾:……知るかよ、そんなん。

お狐様:ぐすっ

高尾:あ~……やめよう。な?この話やめよう。そうだ、なんか喰うか?あと一品くらいなら奢ってやるぞ?

お狐様:いらない。

高尾:え~……どうっすかな……

お狐様:いいよ。私のことは気にせず仕事に戻りなさい。

高尾:いや、そんな涙声で言われても……


〇間。


高尾:あ!いい思い出もあったわ、この村でひとつだけ。

お狐様:なんだい?

高尾:……うーん。ちょっとこの話はやめとこっかな……

お狐様:ここで焦らすのはなしだろう!?泣くぞ。

高尾:すでに泣いてんだよなあ

お狐様:それで?君のいい思い出ってなんだったんだ?

高尾:笑うなよ?

お狐様:いいから、おはなしよ。

高尾:……昔、親父になぐられてこの神社に逃げ込んできたことがあってさ。

お狐様:うん。

高尾:俺そん時に、ここの神様に会ったんだよ。

お狐様:…………へぇ。

高尾:狐の耳と立派な白い尾をもったそれはもう綺麗な女の人で、優しい手で俺の事なぐさめてくれてさ。抱きしめられた時はこう、なんとも言い難い良い匂いがした。

お狐様:ふーん。

高尾:あ、信じてねぇだろ?モテない男の妄想だとか思ってる?マジでいるんだよ。狐の神様が。すっげぇ美人で優しい女神さま。

お狐様:そうかそうか。それが君のいい思い出なのか。

高尾:ああ、そうだよ。俺の一番の思い出。初恋ってやつになるのか?

お狐様:ほうほう。甘酸っぱい響きだ。

高尾:そうだよ。こんなおじさんでもそんな甘酸っぱい時があったんだよ。

お狐様:いまでもその神さまが好きか?

高尾:ん?まあ、忘れられないくらいにはな。

お狐様:それはそれは。

高尾:顔はぼんやりとしか覚えてないけど、ちょうどこんな感じの白い大きな尻尾で……


○高尾、ふと視界の隅に映った白い尾をみて言葉を飲み込む。

○間。


お狐様:白い尾で?

高尾:それで……おい、嘘だろ……


SE:鈴の音。


お狐様:こんな風に、よく尖った耳をしてた?


〇高尾が横をみると、少女に狐耳としっぽが生えている。


高尾:……そんな、何もかわってない……

お狐様:なんだ、私の事ちゃんとおぼえてたんじゃないか。なら当然約束も覚えてるよな、少年?

高尾:白狐って白い狐でびゃっこかよ……

お狐様:知らなかったなぁ。君の初恋泥棒が私か。うんうん。なかなか悪くない気分だぞ。約束通りほかに良い人も作ってないみたいだし、少々ヘタレだが情の深い男は嫌いじゃない。うん。

高尾:約束って、まさか。

お狐様:なんだ、高尾。もしや神との約束を反故(ほご)にする気か?

高尾:え、いや、でも俺、親父を看取ったらこの村から出るつもりで。

お狐様:高尾、この神社には宮司(ぐうじ)がいないんだ。

高尾:あ、うん。いきなり何の話?

お狐様:今の禰宜は高齢でな、息子は海外で飛び回ってるし、孫は中々見どころがあるやつだが、まだ5歳。あと15年はここを管理する奴が必要だ。

高尾:そ、それは大変ですね?

お狐様:高尾。

高尾:無理だって。俺には無理だって。

お狐様:ちょうど約束の日から20年。これもいいご縁だと思わないか?


高尾:(M)少年の夏の日。神社の隅で神さまと交わした約束の思い出を思い出す。

お狐様:もし君が大人になってもこの村にいて、他に良い人もいないのなら、その時こそ私がずっと傍にいてあげるよ。

高尾:(M)きっと忘れないと思った。その美しい思い出を抱えて村を出た。なのに。


高尾:…………ちがう。

お狐様:ん?

高尾:俺の初恋の神さまはこんなこと言わない!!

お狐様:ふふっそれが言うんだよなぁ!

高尾:嘘だあああ!

お狐様:喜べ高尾!約束どおり、この私がお前に嫁いでやろう!

高尾:(M)どうやら、俺の初恋には続きがあったらしい。


〇おわり。

七枝の。

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