〇作品概要説明
主要人物3人。ト書き含めて約5000字。オタクたちのコメディ。仮面台本企画参加作品。
〇登場人物
友人A:ミキちゃん推し。
友人B:カオルくん推し。
ツカサ:友人Bと姉弟。お姉ちゃん/お兄ちゃんは性別によって変えてください
※ミキちゃん、カオルくんはアイドル。好きな名前に変更可。一人称語尾変換自由。
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作者:七枝
本文
友人A:推しが、燃えた。
友人B:いつものことじゃん
友人A:違う!燃えたの!
友人B:はいはい。今日もキュートでラブリーだったんでしょ。
友人A:そっちの萌えじゃなくて、炎上した!
友人B:まじで。
友人A:まじ……
友人B:え~…うっそ、ミキちゃん何したの。
友人A:生配信で……
友人B:やばい通知きちゃった?
友人A:うん……
友人B:あ~……まぁ、ミキちゃんも人間だし、恋人のひとりやふたりや3人はいるよ。そんなもんだよ。
友人A:違う!
友人B:そう言いたい気持ちはわかるよ。
友人A:ちがう!恋人からじゃないの!
友人B:現実見な。
友人A:お母さんなの!お母さんからの通知がきちゃったの!
友人B:へ?
友人A:推しのお母さんから……ごはんだよって。
友人B:健全じゃん。
友人A:赤ちゃん言葉で。
友人B:どういうこと?
友人A:ごはんでちゅよ。ママのミルク用意してまちゅからね♡(はーと)って。
友人B:………
友人A:原文ママです。
友人B:ママだけに。
友人A:そういうボケいらんから。
友人B:ごめんって。ってか、それアレじゃない?恋人とのプレイじゃない?
友人A:通知欄にアカネママ♡(はーと)って書いてたから、推しの母親で間違いないです。
友人B:母親の名前知ってるんだ?
友人A:ファンの間では常識。
友人B:こわ。
友人A:だってだって!推しのインスタ見てたら必ず出てくるんだよ。「今日はアカネママとデート♡(はーと)」とか「ママからの差し入れ♡(はーと)」とか。
友人B:ハート乱舞してるじゃん。
友人A:してるの。
友人B:全部の投稿そんな感じ?
友人A:アカネママだけ。
友人B:……きっも。
友人A:キモくない!
友人B:マザコンじゃん。
友人A:違うの!推しはちょっとお母さん想いが行き過ぎちゃってるだけ!
友人B:世界はそれをマザコンというんだよ。
友人A:全人類、大なり小なりマザコンでしょ!
友人B:主語がでかい。
友人A:推しは世界に羽ばたいて活躍してるから!推しは世界の基準!
友人B:解釈もでかい。
友人A:ママは慈愛の化身なんだよ。つまり推しを愛するファンもママ。ファンと推しは愛し合ってる……
友人B:妄想の化身じゃん。
友人A:うるせー!そういうアンタはどうなのさ!
友人B:うちの推し?
友人A:そう!カオルくん!
友人B:うちの推しは燃えてないよ。
友人A:嘘だ!
友人B:う、嘘じゃないし……
友人A:ふっふっふ。ネタはあがってるんだぜ、これをみろ!
友人B:それは、昨日のトレンドニュース……!
友人A:同じグループメンバーからのタレコミかぁ……可哀そうにねぇ。暴露記事なんて。
友人B:ち、ちがう……なんかの間違いだよ……
友人A:「Q 合宿でメンバー同士、新しい発見はありましたか?」
友人B:やめて、記事を読み上げないで……
友人A:「たくさんありますよ、でも一番驚いたのは」
友人B:ああああああ………
友人A:「カオルが使ったティッシュを干すことかなぁ」
友人B:やめろおおお!
友人A:なにこれ。ティッシュを干すって。
友人B:……うちの推しは倹約家なんだよ。
友人A:倹約にも程がある。
友人B:ふ~、わかってないね。
友人A:なにが?
友人B:まず、ティッシュにはA面とB面があるの。ここまではわかるよね?
友人A:なにが?
友人B:まあわかるよ。私も最初はそうだった。物事を深く考えず、限られた資源を無駄遣いしてた。でもカオルくんが教えてくれた。
友人A:なにを?
友人B:いい?ここに、一枚のティッシュがあります。
友人A:なにがはじまるの?
友人B:このティッシュをこうして薄く広げると………じゃじゃーん!2枚になります。
友人A:……で?
友人B:つまり、ティッシュは最低2回使えるってことだよ!
友人A:不衛生だよ!
友人B:あ、洗えば……
友人A:ドロドロになるよ!
友人B:でもカオルくんが……
友人A:それはあんたの推しが変なだけだよ!
友人B:変とか言うな!
友人A:いや変なものは変だよ。現実みな?
友人B:あんたに言われたくない。
友人A:昨日のタイムラインすごかったじゃん。私のアカウントまで届いたよ。
友人B:知らない。
友人A:知らないわけないでしょ。
友人B:にわかとアンチはミュートしてる鍵垢だから届かない。
友人A:引くわ。
友人B:いいの。私のタイムラインは厳選された仲間たちとカオルくんの尊さについて語るエデンなの。
友人A:エデンってなに。
友人B:私には私の。あなたにはあなたのエデンがある。そこを踏み荒らしてはいけない。これは最低限のマナーだよ。
友人A:ファンってみんなで協力して応援していくものじゃないの?
友人B:そんな生ぬるい応援力で推しの生活支えていくつもりか!?
友人A:えっ
友人B:あんたも長年ミキちゃんのファンやってるならわかるでしょ?純粋にアイドルとして応援してる人もいれば、ガチ恋の人もいる。ママになりたい人もいる。違う生物が同じ水槽で暮らすことなんて無理だよ。
友人A:なんでよ。仲良くしようよ……
友人B:チッ、偽善者め。
友人A:口悪ぅ!そっちはどんな派閥なの?
友人B:エデン。
友人A:それは聞いた。
友人B:カオルくんを神の絶対的造形物として崇める派閥。
友人A:宗教では?
友人B:あの美しさは神だから仕方ない。
友人A:ティッシュ2回使う神でいいのか?
友人B:ぐっ……それを言えばあんたの推しだってクソマザコンでしょ。
友人A:行き過ぎた母親想い!間違えないで。
友人B:間違えてるのはあんたの頭だよ。
(ツカサ、ノックをする)
ツカサ:ねえちゃーん、ジュースもってきたよ。
友人B:つかさあああ!つかさはわかってくれるよね!?
友人A:つかさくん!つかさくんは、うちの推し派だよね!?
ツカサ:なに、なんの話?
友人B:推しが……うちの推しが……
ツカサ:カオルくん?
友人A:うちの子があああ!
ツカサ:え、ミキちゃんのこと?
友人B:推しが燃えたああああ!
友人A:うえええええん!
ツカサ:えーっと……とりあえず、ティッシュ使います?
友人A:使う!
ツカサ:ねえちゃんは、ハンカチだよね。はい。
友人B:うん……
ツカサ:顔面ドロドロだけど、なにがあったの?
友人A:実はかくがくしかじかで……
友人B:まるまるもりもりさんかくで……
ツカサ:なにもわからないことがわかった。
友人A:だって……ねぇ?
友人B:……言えないよ。ファンだもの。
ツカサ:もしかしてニュースで流れてたやつですか?プチ炎上したっていう。
友人A:うん。
友人B:え!カオルくんがニュースに!?
ツカサ:大丈夫。ネットのおもしろニュース枠だから。
友人B:神の造形美のカオルくんがおもしろ枠なんておかしいよ!
友人A:あんたにとってカオルくんはなんなのさ。
友人B:天使。
ツカサ:ちなみにミキちゃんのニュースも流れてましたよ。
友人A:あ~……うん。そうかなって思った。
友人B:アンタ、冷静だね。推しが燃えたのに。
友人A:冷静じゃないよ、つらいよ………でもミキちゃんがああなのは知ってたし。
ツカサ:結局ママのミルクってなんのことでしょうね?
友人A:そこ突っ込まないで。
ツカサ:あ、はい。
友人A:炎上したのはつらいけど、このことがミキちゃんを推さない理由にならない。ダンスとか歌声とか……すごいプレッシャーの中でも、いつも笑って乗り越えちゃうとことか。そういうキラキラしたところをみて推してるんだよ。だからミキちゃんのお母さんがミキちゃんのキラキラの支えになっているなら、そこもぜんぶ含めて推していかないとって思う。
友人B:えらいね……
友人A:アンタはちがうの?
友人B:私も同じ気持ちだよ。カオルくんを応援したい。でも……
ツカサ:好きな人のことをみんなに否定されるのはつらいよね。
友人A:ツカサくん!
友人B:アンタ……わかるの?
ツカサ:うーん、わかるって言っていいのかな……僕はねえちゃんたちみたいに推しとかいないけど、アレだけ情熱を捧げられるものがあるのってすごいなぁって思うよ。ねえちゃんはほら、地下アイドル時代からファンだったでしょ?
友人A:え、地下アイドル時代ってあの……
友人B:うん。靴底エンジェル時代からかな。東京から名古屋まで毎週通ってた。
友人A:出費がえぐい。
友人B:あの頃のカオルくんは本当に貧乏でね、靴底エンジェルってグループ名も靴底すり減ってからが本番だって気合を入れた名前で……そうだ、今も初心を忘れないように節制に努めてるって……
友人A:いい話だ……そういう真面目なところが好きなんだね?
友人B:ううん。顔。
友人A:顔。
友人B:顔が好き。
友人A:そうなんだ……
ツカサ:ねえちゃん、面食いだから。
友人A:面食いで済ませていいレベルじゃないよ、これ。
友人B:ありがとう、おかげで私も初心を思い出せた気がする。私、誰に何と言われようともカオル君の顔がすき。だから応援するよ、どんなケチでもカッコいいから。
友人A:良い話……いい話かなぁ……?
ツカサ:いいと思うよ。カオルくんに熱中してるねえちゃん面白いし。
友人B:ありがとう、ツカサ!
友人A:理解のある家族でよかったね。
ツカサ:……よし、ねえちゃんこっち向いて。
友人B:うん。
ツカサ、友人Bの写真をとる。
ツカサ:パシャ。じゃあ次ジュース呑んで。
友人B:ん。
ツカサ:パシャ。パシャ。はい、ありがと。
友人B:はーい。
友人A:え、なに。今なんで写真とった?
友人B:ああ、ごめんね。こいつこういうやつなんだ。
友人A:こうってどう?
ツカサ:記念にとっておきたくて。
友人A:今なにか感動的なセレモニーあったっけ?私、記憶とんだ?
ツカサ:やだなぁ、ねえちゃんのカオルくん再推し記念ですよ。
友人A:え。
ツカサ:みます?僕のねえちゃんコレクション。
友人A:いや、えーっと……遠慮します……
ツカサ:そう言わずに。布教させてくださいよ。
友人A:布教とか言い出した。
ツカサ:これが初めてライブに行った時のねえちゃんで、これが夜行バスで潰れたねえちゃん。面白い顔してるでしょ?それで、こっちはとっておきで……
友人A:ちょ、ちょっとまって。え、なに?家庭内で推し活してんの?
ツカサ:推し活、ですか?はは、そんなわけないでしょう
友人B:姉弟離れができてないだけでしょ。
友人A:姉弟ばなれとかそういう次元じゃないと思うんだけどなぁ!?
友人B:ミキちゃんは?
友人A:行き過ぎた母親想い!
友人B:一緒じゃん。
友人A:別でしょ!それとこれとは別でしょ!
ツカサ:姉ちゃん、これ写真代ね。
友人B:まいどありー。
友人A:金とってんの!?
友人B:人聞き悪いこと言わないで。
ツカサ:お布施ですよ。お布施。
友人A:限界オタクと同じこと言ってる
ツカサ:あ、でも姉弟で同じ趣味って楽しそう。姉ちゃん、僕の推しになる?
友人B:やだよ、気持ち悪い。
ツカサ:そんなこと言わないでさぁ、姉ちゃんには姉ちゃんの。僕には僕のエデンがある。そう言ってたでしょ?
友人A:その台詞言ってた時はいなかったよね?どこから聞いてたの……?
ツカサ:ふふふ。
友人A:いいの?あんた、こんな気持ち悪い姉弟関係でいいの?
友人B:だって、カオルくんの遠征費用けっこうかかかるし……
友人A:発想がクズ!
友人B:それに推し活って、はたからみたら気持ち悪いとこあるよね。
友人A:それを言ったらおしまいなんだよ。
ツカサ:これからは趣味仲間としても仲良くしてくださいね。
友人A:やだ!こんな現実やだ!たすけてミキちゃ~ん!
【完】
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