台本/二十三回忌の告白(女2)

〇作品概要説明

主要人物2人。ト書き含めて約6000字。お盆に帰ってきた幽霊と友人の百合。ほのぼの。


〇登場人物

すみれ:享年16歳。年の離れた姉がいる。藤花の同級生だった。

藤花:38歳独身女性。地元市役所勤務。両親の残した一軒家にひとりぐらし。


注釈:作中の精霊馬の記述については「精霊馬 バイク」でご検索ください。

精霊馬とは、お盆に帰ってくる霊用の乗り物です。お供え物のひとつ。


〇ご利用前に注意事項の確認をよろしくお願いいたします。

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作者:七枝



本文


すみれ:ただいま、とーかちゃん。

藤花:お、すみれ今年も来たの。

すみれ:とーかちゃんが呼んだんでしょ。

藤花:まあね。

すみれ:そうだ、みてほしいものがあるの。きてきて。

藤花:まって。今そうめん茹でてるから。

すみれ:はーやーくー

藤花:ちょ、待ってって。

すみれ:そうめんなんて火止めてほっときゃいいじゃん。

藤花:のびたらどうすんの。

すみれ:のびてもいいから。

藤花:あんたねぇ。

すみれ:はやくはやくはやく。

藤花:あーうざい。

すみれ:そんな私も好きでしょ?

藤花:ふざけろ。

すみれ:とーかちゃーん。

藤花:わかったって。はいはい、何?

すみれ:ふっふー。じゃーん!

藤花:うっわ。なにこれ。でかいバイク?

すみれ:バイクっていうかオートバイね。ダッジのトマホーク!

藤花:だっじ…?

すみれ:すごいんだよ~ハヤブサの5倍のスピードで走行可能なの。これ2輪にみえるでしょ?でも実は4輪なんだ。2本ずつ独立した構造になってるから、自立が可能でね、もうこの造形美ほれぼれとしちゃうでしょ?

藤花:えーと……すごいね。

すみれ:そう、すごいの!

藤花:あんたこれどうしたの?去年まで馬じゃなかったっけ?

すみれ:甥っ子がくれた。

藤花:へ~キュウリでこんなの作れるんだ。

すみれ:みたい。手先が器用な子でさぁ。今中学2年生。

藤花:え!もうそんな年になるっけ?

すみれ:だよ~

藤花:ちゃんとお礼いった?

すみれ:言った言った。聞こえてるかわかんないけど。

藤花:薄情なやつ。

すみれ:中学生男子にやたらとつきまとってくる叔母とか怖いでしょ。

藤花:それもそうか。

すみれ:うん。

藤花:ふーん、これがダッジのトマホークねぇ……

すみれ:……ふふ。

藤花:……なに?

すみれ:さっきの会話おかあさんみたいだなって。

藤花:は?

すみれ:「ちゃんとお礼いった?」ってやつ。

藤花:ああ。

すみれ:見た目もさ、そんな感じだしさ。

藤花:やめてよ。

すみれ:でも私16だし。藤花ちゃんいくつだっけ?よんじゅう……

藤花:まだ30代だっつうの。あんたも同い年でしょ。

すみれ:え、私16だよ?永遠の16歳だよ?

藤花:痛々しいな。

すみれ:嘘じゃないもーん。

藤花:……まあね。あらためて、おかえりすみれ。

すみれ:うん。ただいま。


〇間。

タイトルコール:「二十三回忌の告白」


藤花:今年はどうすんの?どっか挨拶まわるの?

すみれ:ん~おとといは姉ちゃんとこ行って~昨日は親戚連中まわってきたから、もういいかな。今日の夜帰る。

藤花:そ。うち大したもんないからね。

すみれ:ビール出してよ。発泡酒じゃないやつ。

藤花:残念、未成年は飲酒禁止です。

すみれ:関係ないよ。実質38だし。

藤花:でも永遠の16歳なんでしょ。かわいそうにねぇ、この世の幸せの半分も知らないなんて。

すみれ:知ってるし!去年も一昨年も供えてもらったし!

藤花:しかし今年はないのであった。

すみれ:ええ~うそ。まじで?冗談でなく?

藤花:うむ。

すみれ:え、え~……?そんなに嫌だった?さっきの。

藤花:いや、そういうワケじゃなくてね。最近尿酸値がさぁ……

すみれ:は!?おっさんみたいなこと言うじゃん!

藤花:おっさんいうな。

すみれ:冗談じゃないんだ?

藤花:こんなこと冗談で言えるか。本気でヤバいんだからな、私の健康診断書。

すみれ:胸はらないでよ……尿酸値高いとどうなるんだっけ?注射打たなきゃいけないんだっけ?

藤花:注射?

すみれ:イン……インディアンみたいな名前の。

藤花:インスリン?

すみれ:そう、それ!

藤花:それは高血糖の場合ね。私の場合は尿酸値と血圧高めだから痛風とか高血圧とかのリスクが高い。

すみれ:へ~高血圧ってあれだ。いきなり血管切れるやつだ。

藤花:……だいたいそんな感じ。

すみれ:あ、今説明めんどくさくなって投げたでしょ!

藤花:うっさい。あれしろ。あれだ。ぐぐれ。

すみれ:スマホないもん!

藤花:供えてもらえば?

すみれ:本気で言ってる?

藤花:ないか。

すみれ:ないよ。お姉ちゃん、私の声届かないし。

藤花:そうね。

すみれ:あ~いいな~私もカラダトークしたいなぁ!

藤花:カラダトークって、あなた。

すみれ:あれでしょ?関節が痛いとかグルコサミンが~とかって病院でグチりあうんでしょ?

藤花:そういうカラダトークはあと40年後かな。

すみれ:いいな~体があるってどういう感覚かもう覚えてないよ。

藤花:さっきビール飲みたいとか言ってたのに?

すみれ:あれはね、気持ち。

藤花:きもちって?

すみれ:なんて説明すればいいかな~供えてくれた人が私に「楽しんでくれたらいいな」とか「喜んでくれたらいいな」って思ってくれた気持ちを味わってるっていうか……とーかちゃんのお供え物はね、私に「ビールはこんな味だよ」とか「すこしでも一緒にたのしめたらいいな」って伝わってくるから好きなんだよね。

藤花:あ、っそ。

すみれ:あれ、照れてる?

藤花:照れてない。

すみれ:嘘、照れてるでしょ。

藤花:照れてないって。それなら、そうめんと麦茶でいいね?

すみれ:はーい!


〇間

〇藤花、そうめんをすすっている。すみれはそれを眺めている。


藤花:(そうめんをすすって)んん、やっぱのびてる……

すみれ:ごめーん。

藤花:軽いなあ。

すみれ:ねぇ、それ食べ終えたらさ、夏祭りいこうよ。

藤花:なつまつりぃ?

すみれ:なにその顔。

藤花:あんたがそんなの行きたがったのなんて初めてじゃない。

すみれ:んー……そうね。

藤花:人ごみすごいよ?屋台とかみてもあんた楽しめないでしょ?

すみれ:ううん……

藤花:どうしたの、いきなり。

すみれ:いきなり、ではないんだよなぁ……

藤花:ん?

すみれ:実はさ、けっこう前からとーかちゃんと夏祭り行きたいなあって思ってて。

藤花:前って……いつから?

すみれ:……23年くらい前?

藤花:はあ?

すみれ:へへ。

藤花:それって何?生前からってこと?

すみれ:うん。

藤花:いかない。

すみれ:え。

藤花:絶対いかない。

すみれ:え、ええ~なんで!なんでそんな意地悪するの!

藤花:…………

すみれ:いこうよ~私けっこう勇気だして誘ったんだよ?

藤花:……だって、生前からってことは「未練」ってことでしょ。

すみれ:ん?そうだね。

藤花:未練を消したらさ、あんたみたいな存在はその……

すみれ:あー、そういうこと?私が来年から来なくなると思って嫌がったの?

藤花:……べつに。

すみれ:「別に」?なに、なんなのとーかちゃん?

藤花:うっさいなぁ。にやにやすんな!

すみれ:とーかちゃんってば。

藤花:つつくな!もう、すぐ調子にのる!

すみれ:へへ。……わたし、消えないよ。とーかちゃんが思い出してくれる限り、消えたりしない。

藤花:……そう。

すみれ:とーかちゃんがこっちに来るときは、迎えに来てあげるから。

藤花:それまで、毎年うちに来るわけ?

すみれ:うーん……それはお姉ちゃん次第かなぁ。

藤花:春香さんにお中元送っておくわ。

すみれ:なにそれ。

藤花:何かあった時にいつでも力になりますよってアピール。

すみれ:あざと。

藤花:なによ。健気でしょ。

すみれ:うん、そうだね。

藤花:……

すみれ:私の為に、お供え物したり、お中元おくったり、とーかちゃんは健気ないいこだよ。

藤花:べつにあんたの為じゃないんだからね。

すみれ:ツンデレ?

藤花:違う!私の為だからってこと!

すみれ:へへ。でもお姉ちゃんに絡むのはやめた方がいいかも。22年前に死んだ妹の同級生がいきなり接触してきたら……ねぇ?

藤花:なに?

すみれ:宗教の勧誘か押し売りだと思われる。

藤花:あー

すみれ:ね?だからとーかちゃんはとーかちゃんの生活大事にしたらいいんだよ。

藤花:してるし。私自分の好きなことしかしてないし。

すみれ:そ。ならいいんだけど。

藤花:うん。

すみれ:それで、夏祭り一緒にいってくれるんだよね?

藤花:……まあ。

すみれ:だよね?

藤花:……まぁ、うん。いいよ。

すみれ:ほんと?

藤花:うん。

すみれ:ほんとのほんと?

藤花:うんって言ったでしょ。

すみれ:じゃあゆかたもきてね!

藤花:……はあ?

すみれ:楽しみだな~とーかちゃんの浴衣姿。何気にはじめてだよね!

藤花:ちょっと、あんた本気でいってんの?38歳のおばさんにソロ浴衣夏祭りしろって?

すみれ:ひとりじゃないよ。私がいるよ。

藤花:あんた他の人から見えないでしょ!

すみれ:誰も気にしないって~

藤花:ここがどこだと思ってんの?地元だよ?ちっちゃな町だよ?明日には職場の一大トピックスになってる!

すみれ:あー…ほら、人ごみでわかんないって。

藤花:やだ。ぜ~ったいやだ!

すみれ:ちょっとでいいから。少し歩いたら満足するから。

藤花:いやだって。なんでそこまで浴衣にこだわるの?

すみれ:夢なんだよ~ふたりで浴衣デートしようよ~

藤花:デ、デート……夢だったんだ。

すみれ:うん。浴衣来たとーかちゃんと一緒に夏祭りいって、花火みたい。

藤花:恥ずかしいほどベタな夢だな。

すみれ:お願いお願いお願い!

藤花:うーん……じゃあ、


〇一拍おいて。

〇場面転換。藤花宅裏の山にて。みはらしのいい高台。


すみれ:うわー!高い!裏山にこんなスポットあったんだね~

藤花:(荒い息)

すみれ:とーかちゃんもはやく来なよ~境内の灯りが綺麗だよ!

藤花:ちょっと……まって……

すみれ:情けないなぁ。そんなんだから健康診断ひっかかるんだよ。

藤花:デスクワーク専門なの。

すみれ:ふーん。

藤花:(深呼吸)……ふぅ。やっと着いた。

すみれ:おつかれ。

藤花:ん。久しぶり来たけど、やっぱここ穴場だわ。風にのってお囃子の音も聞こえる。

すみれ:だね。花火何時からだっけ?

藤花:もう少しかな。思ったより登るのに時間かかったから。

すみれ:とーかちゃん、体力ないんだもん。

藤花:ユーレイと一緒にしないで。

すみれ:わ、幽霊差別だ。

藤花:……そんゆうのあるの?

すみれ:あるわけないじゃん。へんなとこ真面目だね。

藤花:…………

すみれ:すねないでよ。せっかくのデートなんだから。

藤花:女同士で何いってんの。

すみれ:へへ。とーかちゃん、浴衣にあうね。かわいい。

藤花:わたし、もうおばさんだよ。かわいいって年じゃないでしょ。

すみれ:それでもかわいいよ。とーかちゃんはずっとかわいい。

藤花:そ。……ありがと。

すみれ:……とーかちゃんはさぁ、

藤花:なに?

すみれ:結婚しないの?

藤花:しないよ。

すみれ:即答?

藤花:するつもりないから。

すみれ:なんで?

藤花:知ってる?同性同士でもそういう質問はセクハラになるんだよ?

すみれ:ねぇ、なんで?藤花ちゃん、こども好きでしょ。モテるし。

藤花:モテないよ。

すみれ:嘘。知ってるんだから。

藤花:昔の話でしょ。

すみれ:結婚じゃなくてもいい。パートナーはいないの?

藤花:しつこい。

すみれ:………

藤花:ひとりでいい。ひとりが楽なの。

すみれ:でもさ、

藤花:(さえぎって)なにが言いたいの。

すみれ:………

藤花:言いたいことあるならはっきり言ってよ。わかんないよ。

すみれ:あのね、

藤花:うん。

すみれ:私、藤花ちゃんのことが、


SE:花火の音。

〇以下、二人同時に。

藤花:あ。

すみれ:あ。


〇十分な間をおいて。

すみれ:あー……えっと、花火きれいだね。

藤花:……っぷ。ふふふ。

すみれ:とーかちゃん?

藤花:花火で告白かき消されるってベタもベタだね。

すみれ:うん。あ、いや、そうじゃなくて……

藤花:違うの?

すみれ:……えっと、

藤花:照れてる?

すみれ:からかわないで、とーかちゃん。

藤花:さっきの仕返し。

すみれ:執念深いなぁ。

藤花:そうだよ。私ほどあんたのこと好きなやつはいないからね。

すみれ:……!

藤花:はははは!幽霊も真っ赤になるのね!

すみれ:とーかちゃんってば!……かなわないなぁ。


〇間。

藤花:ね、すみれ。

すみれ:なぁに、とーかちゃん?

藤花:もういいんじゃない?

すみれ:え?

藤花:22年だよ?22年、私ひとりで待ってたんだよ?そろそろ、連れていってくれてもいいじゃない?

すみれ:ダメだよ!

藤花:………

すみれ:ダメだよ、とーかちゃん。それはダメ。とーかちゃんはちゃんと生きなきゃ。こっちで幸せにならなきゃだめ。

藤花:すみれしか好きになれない。

すみれ:それでも……幸せになることはできるでしょ。

藤花:あんたの言う幸せってなに?結婚すること?こどもをうむこと?そんな古臭い価値観で生きろっていってんの?

すみれ:違うよ。そういうことじゃない。

藤花:じゃあどういうこと?

すみれ:……ここは寒いよ。暗くて陰気だし、楽しいことなんてひとつもない。

藤花:あんたがいるならいい。

すみれ:私は死んでるんだよ。

藤花:わかってる。

すみれ:わかってないよ!だって、こんなに好きなのにキスもできない……!

藤花:すみれ……

すみれ:とーかちゃんのばか。あほ。頑固者。とーかちゃんがそんなんだから私、いつまでたっても諦めきれない。もういいよ、呼んじゃだめだよって言わなきゃいけないのに。私の事忘れて、って言わなきゃ駄目なのに……!

藤花:私はすみれを忘れない。

すみれ:だめだよ。

藤花:あんたがなんて言おうと、来年もあんたを呼ぶ。

すみれ:だめだってば。

藤花:ここで来年も待ってるよ。つれていってくれるまで、ずっとずっと待ってるよ。

すみれ:この頑固者……


〇どこからか、モーター音が聞こえる。

〇一拍おいて。

すみれ:そろそろ、行かなきゃ。

藤花:……帰りもバイク?

すみれ:ん。スズキのチョイノリ。

藤花:やだな。牛のままの方がよかった。

すみれ:間抜けじゃん。

藤花:牛だったら、二人乗りできるでしょ。

すみれ:……とーかちゃんの冗談、笑えない。

藤花:冗談じゃないから。

すみれ:いじわる。

藤花:どっちが。

すみれ:じゃあね、とーかちゃん。からだには気を付けてね。

藤花:死んだら迎えに来てくれるんだっけ?

すみれ:馬鹿。……また、来るから。それまで死んだらだめだよ。

藤花:……うん。


〇間。

藤花:いってらっしゃい、すみれ。

〇おわり。

七枝の。

声劇台本おいてます。 台本をご利用の際は、注意事項の確認をお願いします。

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