台本/先生、地獄でまっててね。(男1:女1)

〇作品概要

主要人物2人。ト書き含めて約1万字。

女子高生が気になってる先生に人生相談するだけの、なんてことないある夕方のお話。ホラー要素、首絞め要素あり。


〇登場人物

立花:天真爛漫で明るい女子高生。学校生活が少々退屈。

先生:人あしらいが上手く、生徒には人気。20代後半~30代前半くらい。


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作者:七枝


本文



〇教室にて。『』はモノローグ。

立花:『学校って退屈だ。友人も恋人も、楽しいけれどそれだけで、古典も数学も化学も、何かを語りかけていくけど、夢中にはなれない。結局すべて私の中を通り過ぎていくだけで、まるで透明人間になったみたい。

終業前の90分という死ぬほど苦痛な時間が終わると、クラスの子たちは遊ぶ約束もそこそこに、早々と帰り支度を始めだした。

ニュースの話をぺちゃくちゃぺちゃくちゃ飽きもせずに話しながら、殺人鬼がどうたらこうたら。

そうだね、最近やばいもんね、ってテキトーな相槌(あいづち)を打ちながら、教室の窓から暮れゆく外を眺める。(ここで一呼吸おく)』


立花:うーん、なんだか世界の終わりにちょうどいい日、って感じ?


  間。

〇すっかり日の暮れた教室にて。

先生:『放課後、がらんどうの教室。俺は日誌を教卓において、黒板の落書きを消していた。誰が書いたのか、明日の日直の欄には「まもちゃん先生」と落書きされており、苦笑してしまう。生徒に好かれているのかなめられているのか…あるいはそのどちらもか。綺麗になった黒板の日直欄に「七瀬」と書いて、チョークを置く。あとは窓締めと、残っているやつがいないか確認か』

先生:『窓の外には真っ赤な夕日が校庭を照らしていて、なかなかロマンティックな光景だった。感性が豊かな学生たちなら、「まるで世界の終わりのようだ」なーんてクサいことを言うやつもいそうだ。まったく、くだらないな。』


SE:ドアを開ける音。

立花:まもちゃんせんせーっ

先生:…っ!立花か!おまえまだ学校にいたのか?

立花:えへへっ、まもちゃん先生が教室にいたの見えたから、戻ってきちゃった!まもちゃん先生はまだお仕事?いっしょに帰れる?

先生:まだ仕事だし、俺は生徒と一緒に帰らない。

立花:えー!つめたい!まもちゃん先生車通勤でしょー?家まで送ってよぅ

先生:おーくーらーなーい。最近PTAが厳しいの知ってて言ってるのか?恐ろしいな、最近のお子様はよぉ

立花:いいじゃん!まもちゃん先生とわたしの仲じゃん。

先生:どういう仲だ。

立花:え、わたしの口から言わせるの?やだなぁ、まもちゃん先生ってば

先生:なにを言う気だ。なにを。

立花:それはぁ………えへへっ

先生:ふざけてないで、さっさと帰れよ。最近このへんも物騒(ぶっそう)だからな。

立花:物騒って?

先生:なんだ、おまえニュースみてないのか?今日の朝もそのニュースで持ちきりだっただろ。ほら、ひふみ連続殺人の。

立花:あー!はいはいはい!知ってる、知ってるよぉ!名前だっていえるもん。数字に合わせて人が殺されてくやつでしょ?古い小説かB級映画みたいだよね。えーっと、一ノ瀬一二三(いちのせ ひふみ)くんに、如月香苗(きさらぎ かなえ)ちゃんに、田中三誉(たなか みよ)くん、四月一日彩香(わたぬき あやか)ちゃんに、すずみや…えーっと、すずみや……なんとかくん!

先生:涼宮皐月(すずみや さつき)、な。

立花:そうそう、涼宮皐月くんだ!じゃーん、どうだ!すごいでしょ?全部おぼえてたの!最初に殺された男の子が一ノ瀬一二三くんで、数字に合わせて殺人が行われていく、っていうセンセーショナルな話題性から「ひふみ殺人」ってあだ名がついたの!あとね、えっとね、女の子と男の子、交互に殺されてるってクラスの子がいってた!

先生:全部いえてないし、殺人事件を娯楽にするな。

立花:まもちゃん先生きびしーい。隣町のニュースでしょ?

先生:隣町のニュースだから、だ。あともっと危機感もちなさい。

立花:危機感…危機感、かぁ。なぁーんか今更って感じ?

先生:今更も何もないだろう。ほら、わかったらさっさと帰った帰った。

立花:え、やだやだ!まだ追い出さないで!えっと、うーんと、そうだ!相談!まもちゃん先生、人生相談のってよ!かわいい生徒の人生相談のるのも教師の仕事でしょ?

先生:人生相談?おまえみたいなやつがいっちょ前に悩むのか?

立花:まもちゃん先生ひどい!傷ついた!やわな女子高生のハートがズタズタにされた!PTAに言いつけてやる!まもちゃん先生にキズモノにされたって訴えてやる!

先生:おいおい、とんでもないクソガキだな。しゃーない、戸締まりと日誌の確認が終わるまでの間だからな。終わったら親でも頼れる彼氏でも呼んで、さっさと帰るんだぞ。

立花:彼氏なんていないよーぉ。あ、でもまもちゃん先生が彼氏になってくれる?

先生:それが相談ならさっさと帰れ。

立花:ちがうちがう!冗談だってば!まもちゃん先生のそんな優しいところも好きだよ、って言いたかっただけです。

先生:……はぁ(ためいき)

立花:えっと、えーっとね。相談はね、これは友達の話なんだけどね。

先生:よく聞く導入だな。

立花:その子は好きな子がいるのだけどね、男の子だからどうしようかなーって迷ってるんだって。

先生:なにか問題があるやつなのか?

立花:問題っていうかぁ、男の子だから。

先生:俺の頭でも理解できるように説明できるか?

立花:うん?なんか通じてない?……あ!友達もね、男の子なの。でも女の子なの。わかる?

先生:男の子で女の子……?

立花:じぇんだーふりーってやつ?

先生:あ、ああー!トランス・ジェンダーのことか!友達ってのは、おまえのことじゃないんだな。

立花:友達の話っていったじゃん。まもちゃん先生、ちゃんとわたしの話きいて!

先生:いやだってあんな導入するから……はいはい、それで?

立花:その子はね、男の子の体だけど女の子なの。んで、わたしはべつに気にしないよーって前に言ってから結構色んな話してくれるようになったんだけど。

先生:うんうん。

立花:最近好きな人ができたんだって。で、その人は年上の男の人なんだって。その人はどーみても「ふつう」の人だから、僕が告白しても絶対相手にしてくれないだろうし、逆に気味悪く思われるかもしれない、こんな話他の誰にもできない、でもその人のこと毎日見るたびに好きになっちゃって、苦しくてたまらないんだって。

先生:それはまた難儀(なんぎ)な話だなぁ。相手は立花も知ってるやつなのか?

立花:うん知ってるよ~見せてもらった!でもなんか趣味わるいなぁって感じ?確かに顔はイケメンでモテそうだけど、あれは絶対裏でヤバイことやってるタイプ。

先生:最悪じゃないか。

立花:そうなの、最悪なの!友達にも「アイツはやめときなよ」って言ったんだけど、逆に「僕じゃ釣り合わないって言いたいんだろ~」って、自分のこと責め始めちゃう始末で、もう本当にメロメロなの。「告白しても絶対上手くいかないだろうけど、あの人なら僕の気持ちだけでも受け止めてくれるかもしれない」って言ってさ~

先生:トランス・ジェンダーはそれ自体ナイーブな話だからな。下手なやつに言って言い触らされたら、本人も家族も辛い目にあうだろうし。

立花:でしょー?最初は友達もそういって、絶対告白はしない!って言ってたんだけど、わたしに話しているうちに、変に自信がでちゃったのか、告白してみようと思う、って言い出して。

先生:ほぅ。

立花:前向きになること自体はいいんだけどね、絶対クソ野郎だよ、って言ったら「絶対違う!告白する!」ってムキになっちゃって。

先生:おぉう・・・・・・

立花:で、服買いに行くことにしたの。

先生:ちょっとまて、話が飛んだぞ。

立花:飛んでないよ~友達ね、表向き男の子として過ごしているから、女の子の服がないんだって。でも告白するなら、本来の自分の姿で行きたいから、って言うから、服買いにいくことにしたの。

先生:ああ、そういうことか。もっと順序だてて言ってくれ。

立花:考えればわかるじゃん?まもちゃんセンセ、ちょっと頭わるい?

先生:さて、帰るか。

立花:あー!まって、まって!ごめんなさい!神様キリスト様まもちゃん先生さまぁっ!

先生:・・・・・(ためいき)もう窓締め終わったからな。日誌の確認が終わるまでだからな。

立花:うんうん。日誌の確認が終わって、わたしの相談が終わるまでね。

先生:ほんとにしょーがないやつだな…俺はまだ仕事が残ってるのだから、あんまり長引かせるんじゃねーぞ

立花:ありがとー!さすがまもちゃん!

先生:先生、な。先生を忘れるなよ。

立花:えへへ・・・・・・放課後ショッピングモールにいってね。わたしはちょっとその場所にいけなかったから、テレビ電話で話ながらなんだったのだけど、本当にたくさんたくさん悩んでね。でもその甲斐(かい)あって、すっごく似合ってて、かわいい服買えたの。まもちゃん先生も、覚えてるかな?白いモコモコのタートルネックと、ピンクのAラインのロングスカート。

先生:いや俺たぶんそのとき仕事してたからな?見てるわけないだろ?

立花:ウィッグも買ったんだよ!清楚系のがいいよね、って話あって黒髪ストレートロングにしたの。男は誰しも黒髪ロング清楚派ならワンチャンあるって思うから、って。

先生:なかなかゲスいな。

立花:その子、男の子にしては大分華奢(きゃしゃ)で喉仏(のどぼとけ)も目立たない子だから、ぱっと見本当に女の子にみえた。わたしもうれしくて、すっごく可愛いよ。これなら大丈夫って褒めまくったの。

先生:へー、で、告白したのか?

立花:うん、したよ。

先生:それで上手くいかなくて、塞ぎ(ふさぎ)こんじまったってのが、相談内容か?立花。

立花:違うよ、まもちゃん先生。やだなぁ、そろそろわかってきたでしょ?

先生:・・・・・・なんのことだ?

立花:やだなぁ、先生。わたしの口から言わせたいんだね。仕方がないなぁ、えへへ

  間。

立花:その子、わたしの前で告白したい、他の人に気づかれたくないけど、友達の前だと勇気がもらえるから、お願いだからみててって言うから、服は放課後までわたしが預かっててね。時間になったら、こっそり教室から屋上に上がって来てもらって、着替えたの。寒い日だった。夕焼けが真っ赤でね、ちょっとお化粧はしづらかったな。チークの色少なすぎたかも。でも睫毛(まつげ)はバシバシにキメて、眉も綺麗に整えて、楽しかったな。お化粧するの久しぶりだったから。

立花:グロスも塗ったんだよ。清純派だからあんまり濃い色はよくないと思って、でも少し明るい色。あの子肌が白かったからよく似合ってた。勇気をたくさんありがとうって笑ってた。

立花:いくら周りの人からは見えないっていっても緊張するだろうから、ちょっと離れたところでみてたんだ。あの日の放課後、ちゃんとまもちゃん先生は来てくれたね。他の先生も出払ってる日を狙ったから、忙しいのに、ってちょっとイライラしてたかな?でも、出来るだけ目撃されるリスクを減らしたかったの。一世一代の告白だったから。

立花:あの子が、震える声で、精一杯高い声を出して、「先生、忙しいのに来てくださってありがとうございます」って言ってたね。それで、なんか他にもいろいろ言ってたなぁ。まもちゃん先生をずっと見てたこととか、いつも励ましてくれて感謝してるとか、今日は自分の気持ちをどうしても伝えたくて来てもらったとか、頑張って伝えてた。すごく可愛かった。恋する、女の子の顔してたよね。

だから、まもちゃん先生間違えたんでしょう?あの子は制服着てなかったし、時間も遅かったから、外部の学生が忍び込んできたとでも、思ったのかな。

立花:あの子が名前をいったとき、それまでまもちゃん先生、ずっと神妙な顔してたのに、少し笑ったの、わたしみてたよ。だから、あの時が最後のチャンスだった。わたし、ずっとみてたから止められたのに。止めれなかった。

先生:…………おまえ、なにがいいたいんだ。

   間。


立花:ねぇ、せんせい。六郎ちゃんを、どこに埋めたの?


先生:………っ!

立花:校内じゃないよね。校内ならわたしわかるもん。まもちゃん先生が六ちゃんを連れて行っちゃって、わたし、すっごく悲しかった。これでずっと一緒にいられるお友達ができたかと思ったのに、持って行っちゃうんだもん。

先生:……どこで……どこから、みてた…

立花:すぐ近くだよ。それより、まもちゃん先生、六ちゃんはどこに行っちゃったの?連れてきてよ。簡単でしょ?まもちゃん先生、もう六人も殺しているんだから、死体を移動させることなんて、得意分野でしょ?

先生:は・・・・・・?おまえ、なにをいって

立花:やだなぁ。だから近くで見てたって言ったでしょ?もちろん先生の声だって聞こえてたよ。「クソ、間違えた」「次は女なのに、男じゃないか」「ややこしいことしやがって」って。六ちゃんのこと何度も何度も蹴ってたね。かわいそうだった。そばでなぐさめてあげたかったけど、その時は六ちゃん死んだばかりで、わたしの声届かなくて。

立花:まぁ、少し待てばなんとかなるかなーって思ってたけど、まもちゃん先生が六ちゃん連れて行っちゃうせいで、会えなくなっちゃうし。わたしのたった一人のお友達だったのに。

先生:あのときっ、俺は完璧だったはずだ!目撃者もいなかった!監視カメラに写るはずもない!あの場所はどこの校内の建物からも見えるはずのない完璧な死角(しかく)のはずだ!おまえ、いったいどこからみてた!

立花:うしろだよ。

先生:はぁ?

立花:わたし、六ちゃんが殺されたとき、うしろにいたの。みえなかったでしょ?

先生:ふざけたことをっ

先生:『俺は怒りのまま立花に向かって殴りかかろうと、椅子を蹴飛(けと)ばし、彼女に詰め寄った。だがその時―……俺は奇妙な現象に気がついた。なぜだ?なぜ立花は水平に移動している?俺が立ち上がるまでは、立花との距離は教室の机3個分離れていた。今は対角線上に、机6個分程度離れている。俺から離れるために移動したのだったら、足音がするはずだ。それに人間は歩く時どうしても、上下運動をしてしまう。「歩いて」移動したのだったら、水平に移動することなど、できないはずなのだ。それになにより・・・どうしてこいつの「向こう側」の景色が透けて見えるのだ?』

先生:『夕日が落ちる前の最後の光が、教室の中を赤く染め上げていた。その光に照らされて――いままで陰(かげ)になっていた立花の立っていた場所が白い床を反射して、キラキラと光っている。その後ろに、少女の影は………ない。』

立花:あはっ、まもちゃん先生、気づいちゃった?

先生:おま、おまえ、おまえは・・・・・・

立花:うんうん、そうだよ。わたしもう死んじゃってるの。この学校から出られないの。だから危機感とか今更なんだよね。必要ないってか、あってもどうしようもないっていうか。

先生:なんで……おまえ、だって、おまえは俺の生徒……

立花:うん。まもちゃん先生。わたしの名前言ってくれたよね。嬉しかったな。ようやくチャンネルがあってくれたんだね。ずっと、ずーっとまってたの。六ちゃんが死んでから、先生が次の子を見つけるまでに、どうしてもわたしを「認識」してほしかったから。頑張って呪った甲斐があったな。まぁ呪ったって言っても先生が学校にいる間、ずっと耳元でわたしの名前を囁いて(ささやいて)いただけなんだけどね。でも一途な思いって届くっていうじゃん?六ちゃんの想いは届かなかったわけだけど。

先生:おまえの・・・名前・・・

立花:そう、立花菜々。(たちばな なな)わたしの名前。漢字は数字の七と違うけど、『七番目』にぴったりでしょう?まもちゃん先生、どうやら全然「みえない人」みたいだから、先生が「七番目」を探しているうちに、会いたかったの。少しでも縁があるうちなら会えそうだなぁ、っていう素人(しろうと)考えなんだけどさ。

先生:『でも会えた、っと嬉しそうに立花が微笑(ほほえ)む。そうだ、立花菜々。俺はこの少女の担任ではない。いつもどこの机に座るかも、何年何組に在籍(ざいせき)しているかも、なにも知らない。立花菜々は、この学校の生徒ではない。では何故俺はこの少女を知っていると思い込んでいた?チャンネル?一体なんのことだ?俺を呪った、と立花菜々は言っていた。つまり今の俺は呪われているのか?だからこの少女が・・・・・・幽霊がみえるのか?

先生:背筋が凍るような、ぞっとした感覚が湧き上がる。立花菜々だけならまだいい。少々気味が悪いが、この幽霊になっても馬鹿そうな女なら、なんとかなる気がする。しかし、そうでないのなら、そうでないのなら、もし・・・・・・』


立花:ねぇ、まもちゃん先生。きいてる?

 ―先生、立ち上がり立花に襲い掛かる。以下先生が立花の首をしめている。

先生:う、うわぁああああ!

立花:きゃっ!あ、ダメ、まもちゃん先生!

先生:おまえのせいだ、お前が余計なことをするからっ!

立花:ぐっ、うぐっ(苦しげな声)

先生:どうするんだ!計画が台無しじゃないか!これじゃあ数字が完成しないっ

立花:・・・・・・せっ……せんっ……(うめき声)

先生:ああああああ、せっかく、せっかくここまできたのに、俺は、俺は完璧にやったのに

立花:・・・・・(ひゅーひゅーというか細い呼吸音)

先生:あああああああああ

   間。

先生:『少女の首をしめつづけ、ふと我に返り辺り(あたり)を見回すと、とっくのとうに夕日は沈んでいた。腕の中にいた少女も不思議なことに、どこにもいなくなっている。夕日のように、ふっと消えてしまったのだろうか。だとしたらいい。そうであればいい。

先生:やや呆然とした気分でありながらも、なんとか日誌を回収して、教室のドアを閉める。人気(ひとけ)のない職員室を通り過ぎ、ともかく家に帰ろうと教職員用のドアを開ける。・・・・・・開かない。力をこめる。………しかし、開かない』


〇場面転換。教職員用出入口の前にて。

立花:よかった、間に合ったね。

先生:たち、ばな?

立花:わたし、学校から出られないからさぁ。まもちゃん先生にのこってもらう必要があったんだ。夕日が落ちて、影がのびて、夜が来る。わたし達の時間まで。

先生:おまえ、ころしたはず、

立花:もう、まもちゃん先生ってば、本当に言わせたがり屋さんだね。教えたでしょ?わたしもう死んでるんだってばぁ。死んだ人をもう一回殺せるはずないじゃん。センセってば、やっぱり、ちょっとおバカさんなんだね。幽霊を殺してみたり、殺すターゲットを間違えたり……数字に合わせて人を殺してみたり?

先生:く、くるなっ

立花:まもちゃん先生、どうしてこわがってるの?

先生:くるなあっ

立花:やだ、先生まって!

〇学校の廊下をかけぬける先生。

先生:『すっかり日の暮れた校舎を、出口を求めてひたすら走る。どの窓もどの窓も開かない。それどころか教室のドアも、トイレのドアも開かない。恐ろしい想像ばかり膨らんで、思考が纏まらず(まとまらず)、後ろからついてくる声から、離れるために足を動かす』

立花:せんせい、ねぇまって。せんせいってば。

先生:『恐ろしいことに、足音は聞こえないのに、声だけはどこまでも聞こえてくる』

先生:『俺はただ少女の幻覚から逃げるためだけに、唯一開かれた逃げ場である階段から、上へ上へと足を進めた。それが誘導されているなど、少しも考えもせずに』


SE:ドアが開かれる音。

〇屋上にて。

立花:えへへ、屋上までようこそ、先生。

先生:(はげしい息づかい)……

立花:おどろいた?わたし、幽霊だから。校内ならこんなこともできるんだ。

先生:おれを………どうしたいんだ………

立花:どうしたいんだと思う?まもちゃん先生はどうされたい?わたしはね、まもちゃん先生が何人、人を殺しててもどーでもいいんだ。六ちゃんがまもちゃん先生に殺されたときもね、わたしやっぱり、どーでもよかった。ううん、違うね。やった!って思った。六ちゃんが先生に殺されること、あの瞬間まで予想してたわけじゃないけど。やっぱりまもちゃん先生は、思った通りのクソ野郎だったから、仕方がないよなぁって。それより、六ちゃん学校で殺されちゃったから、このままわたしと同じように幽霊になって、永遠にわたしといっしょにいてくれるのかなぁって、思ったら嬉しかった。期待した。わたしの唯一のお友達が、わたしの永遠のお友達になってくれるんだと思った。でも、まもちゃん先生ったら六ちゃん持って行っちゃうから。

先生:六郎の死体を持ってくればゆるしてくれるのか。そしたら俺をこの呪いから解放するのか?

立花:うーん、どうだろう?わたしも生きてる人をこんなに頑張って呪ったの、初めてなんだよね。六ちゃんが学校にきたら、先生のことを呪うかもしれないから、呪いの効果はもしかすると、倍増(ばいぞう)するかもね。

先生:なんだよ、それ………

立花:えへへへへ。だから、ごめんね、まもちゃん先生。わたし、まもちゃん先生のこと全く信頼していないの。こういうこと言っても、言わなくても、ここから逃げ出せたら、まもちゃん先生はどこか遠くに逃げちゃって、わたしとの約束なんて忘れて、六ちゃんを連れてきてくれないだろうなぁって思ってる。でも、やっぱりね、六ちゃんの・・・六郎くんの、あの笑顔を思い出すとね、『勇気をいっぱいありがとう』って言葉を思い出すとね、なんだか、もうとっくのとうになくなった私の心臓が締め付けられるような気がして、やっぱりこのままじゃいけないよなぁって、そう、思うの。

先生:(おびえた様子で)やだ、やめろ、こっちにくるなっ

立花:まもちゃん先生、わたしにおびえてるの?やだなぁ、最初にわたしを殺したのはまもちゃん先生の方なのに。

先生:俺にはまだやることがある。やることがあるんだ。数字を完成させなきゃ、すうじを、

立花:ふーん?まもちゃん先生って変なことにこだわるんだねぇ。でも、もういいんじゃないかな。だってほら、『八番目』でしょ?

先生:はち・・・?俺は六で失敗して、だから、新しい六を、そして七だってアテはある・・・

立花:えへへ。先生がんばったんだねぇ。でも、六は六郎くんだったでしょ?で、七は、さっきわたしを殺したから、完成した。だからねぇ、先生。よく考えて?次は『八』だよ。

先生:は・・・?

立花:ねぇ、蜂須賀守(はちすか まもる)先生。貴方の数字に必要な『八番目』は貴方だったんだよ。近くにありすぎて、気づかなかったんだね。先生、これで貴方の数字は完成する。

先生:『少女の指が、まっすぐ俺をとおりこして、屋上の柵(さく)を指し示す。いや、柵じゃない――柵の向こうの空だ。真っ暗な、無明(むみょう)の闇。いつもならば街の灯りが彩る(いろどる)だろう景色は、今や校庭の数本のライトを除いて、深い闇に沈んでいる。いつの間にか俺はふらふらと吸い寄せられるように屋上の柵を握りしめ、闇の向こうを覗きこんでいた。こんな危ない状況で、こんな危ない体勢をとるべきではない。わかっているはずなのに』

立花:よかったね、これで完成するね、蜂須賀先生。貴方は失敗してなかった。貴方はちゃんと数字を完成させた。これでちゃんと全てが終わるんだよ。

先生:・・・・・・すべてが、完成する?

立花:そうだよ、蜂須賀先生!ようやくわかってくれたんだね。

先生:『少女の口がまるで三日月のように、ぐにゃりと曲がる。ああ、あれは俺を嘲笑って(あざわらって)いるのだ――そう思った次の瞬間、背にいくつもの小さな手の感触を受けた』

立花:じゃあね、先生。地獄でまってて。

先生:(かすれた悲鳴)

先生:『闇が、どんどん近くなっていく。なにもない暗闇に落ちていく。校庭のライトだけがぼんやり光るその中で、屋上から俺をみつめる少女の白い顔が最期に一瞬みえた・・・そんな気がした』

  間。

立花:……あーあ、また退屈になっちゃったな。

〇おしまい

七枝の。

声劇台本おいてます。 台本をご利用の際は、注意事項の確認をお願いします。

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