〇作品概要
主要人物2人。ト書き含めて約8000字。BL要素
妻が出て行った。4度目の浮気だった。別れた妻の置き土産は、最新型の少年アンドロイドだったー・・・
「はじめまして、イツキ。今日から僕があなたのAI彼氏です!」
〇登場人物
樹:男性。社会人。別居中の妻、花がいる。
ミノル:少年。演者の性別不問。アンドロイド(最新型)
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作者:七枝
本文
〇Mはモノローグ。
樹:(M)妻がでていった。それも仕方ない。四度目の浮気だった。
SE:ビンタの音。
樹:痛~!くそ、あいつ思いっきり殴りやがって……
ミノル:大丈夫ですか、イツキ?
樹:あん?だれだ、お前。どこから入った?
ミノル:僕は花さんの彼氏……ええっと、元カレということになるのかな。どうぞお気軽にミノル、って呼んでください。
樹:かれしぃ?なんだあいつ。俺を責めときながら自分はガキと不倫してたのか?
ミノル:いいえ。不倫、とは少しちがいますね。
樹:はぁ?
ミノル:僕はアンドロイド。花さんが購入したAI彼氏なんです。
樹:えーあいかれし、だぁ?
ミノル:ええ!そして今日からはイツキの彼氏です!
樹:(M)別れた妻の置き土産は、満面の笑みでそうのたまった。
〇樹宅のリビング。
樹:えーっと、それで?お前は人間でなくてロボットで、俺がいない間に花が買ったその……
ミノル:ロボットではなく、アンドロイドです。正式名称は、ビスポーク・ドール。ファントム社が提供する家庭用アンドロイド。僕はその第2期型です。「完璧な彼氏」をコンセプトにつくられ、所有者の求める性格、性能、外見になってます。
樹:所有者の求める外見……って、はぁ?つまり、花は…
ミノル:…………ええ。
樹:ショタコンかよ、クソアマァ!?
ミノル:イツキ、落ち着いてください。もう終わったことです。
樹:これが落ち着いてられるか!?
ミノル:お茶でも飲みます?僕紅茶いれるの上手いんですよ。
樹:いらねぇ!うあ~っくそっ
ミノル:うーん。あ、じゃぁひとついいことを教えてあげましょう。
樹:なんだよ!
ミノル:僕と花さんに肉体関係はありませんでした。
樹:~~っ!でてけっ
ミノル:無理です。
樹:はぁっ?
ミノル:花さんがこの家を出ていかれる際、プログラムを書き換えられまして。今の使用者……もとい僕の「彼女」は貴方になってます、イツキ。
樹:い、いらねぇよ!廃棄だ、廃棄!いますぐ捨ててやる!
ミノル:そういうわけにもいかないんですよねぇ。ニュースとかみないんですか?アンドロイドの不当廃棄って罰金かかるんですよ。だから専門業者に回収をお願いしなきゃいけないんです。
樹:じゃあ業者に頼めばいいんだろ?電話番号教えろ!
ミノル:ありません。
樹:はぁ?
ミノル:正確に言えば、なくなりました。情報収集は大切ですよ、イツキ。ファントム社倒産のニュースは新聞のトップ記事なのに。
樹:(うめき声)
ミノル:おやおや。頭痛ですか?お薬いります?
樹:てめぇのせいだ!てめぇの!
ミノル:わかってます。
ーミノル、イツキにちかづく。
ミノル:ねぇ、そんな深刻に考える必要ないじゃないですか。僕、便利ですよ?料理洗濯掃除にご近所づきあい。なんだってできますし、食費もかかりません。必ず貴方の助けになります。
樹:ぐっ…だ、だが俺はホモじゃねぇ!
ミノル:だれも貴方を同性愛者だなんて言ってませんよ。ああ、でも……イツキがのぞむなら…
樹:ちかいちかい!顔が近いっ
ミノル:夜の方も、サポートしますよ?
樹:……っ!どけっ
ミノル:おっと、あぶないなぁ。どうです?ここに置いていただけますか?
樹:(舌打ち)ほかにどうしろって?
ミノル:ですね。では、よろしくおねがいします。僕の新しい彼女さま。
ーミノル、イツキの手の甲にキスをする。
樹:なっ
ミノル:(わらう)
樹:(M)こうして妻のいない一軒家、ポンコツロボットと奇妙な同居生活がはじまった。
〇場面転換。朝の玄関。
樹:じゃ、でかけてくる。夜おそくなるから。
ミノル:はいはーい。どうぞイツキ。
樹:…?なんだよ、これ。
ミノル:お弁当です。
樹:いらん。
ミノル:中身はポテサラ、たまごやき、から揚げに、ほうれんそうのおひたし。あとはですね~昨日いくらが安く買えたんで、僕特製のはらこ飯です!
樹:はらこ飯……
ミノル:お好きでしょう?
樹:なんで……
ミノル:花さんから聞きました。
樹:(舌打ち)
ミノル:寄り道しないで帰ってきてくださいね!晩御飯はハンバーグですよ!
樹:遅くなるって言っただろうが!
ミノル:あ、あとこれ。はらこ飯の残りで作ったおにぎりです。行きがけに食べてください。
樹:聞いてんのか、ポンコツ!
ミノル:いってらっしゃい、イツキ!しっかり稼いでくるんですよ~
SE:ドアが閉まる音。
ー樹、歩きながら握り飯を口にする。
樹:なんだよ、居候のくせに馴れ馴れしい…(一口食べる)
樹:……これ、花の味だ……くそ、生意気なロボットめ……
〇深夜。樹宅。
ミノル:(鼻歌)
樹:おい、ポンコツロボット。
ミノル:イツキ!おかえりなさい、帰りが遅いから心配したんですよ。そして僕はアンドロイドです!
樹:遅くなるって言っただろうが。
ミノル:お夕飯は貴方の好きなチーズインハンバーグだったのに。明日の朝食べてくださいね!
樹:俺はいらねぇって言ったよなぁ。お前の耳は故障してんのか?
ミノル:……ん?くんくん。う~ん…この匂い……
樹:なんだよ。
ミノル:イツキ……あなた……
樹:近い近い。人間にはパーソナルスペースってもんがあんのよ?記録しといて?
ミノル:貴方、また浮気しましたね!
樹:はぁ?
ミノル:僕というものがありながら!よそさまのシャンプーの香りをさせてくるとは何事ですか!
樹:お前頭大丈夫か?
ミノル:僕の回路は正常です!くぅ…!どこの女ですか!?くやしいっ
樹:昨日あったばかりのお前と浮気もなんもねぇだろうが。
ミノル:樹は僕の彼女でしょう!?
樹:彼女という名の所有者な。所有者。
ミノル:……はぁ。この僕をここまでかき乱すなんて罪な彼女ですね、イツキは。
樹:もしもーし。俺の話きいてる?
ミノル:わかっていました。ええ、わかっていましたよ。花さんから聞いていましたからね、イツキのお転婆っぷりは。しかし、この僕が彼氏となったからには、今までどおりに行くと思ったら大間違いです。
樹:お転婆って……
ミノル:僕のラブラブ大作戦に恐れおののくがいい!
樹:なにいってんだ、このロボット……
ミノル:とりあえず作戦第2弾はこちらです。
樹:あん?
ミノル:どうせシャワーは浴びてきたんでしょう?ならばこの太陽の香りでいっぱいの、ふかふかベッドで思うがまま休んでください!
樹:お、おう……
ミノル:疲れたイツキがぐっすり眠れるよう、ラベンダーのポプリも添えておきました。
樹:乙女かよ。
ミノル:ふふん。
樹:勝ち誇るとこじゃねぇけどな……じゃぁ、俺は寝るわ……あ。
ミノル:どうしました?
樹:そのカバン……
ミノル:え?ああ、花さんのものです。花さんの洗濯物はこちらによけておこうかと。
樹:……ふーん。
ミノル:なんですか?
樹:昨日まで「彼女」だったやつに、随分つめたいんだな。
ミノル:……え?
樹:寝る。おやすみ。
ミノル:……はい。おやすみなさい。
SE:ドアが閉まる音。
ミノル:……ふむ。これは、想定よりお役に立てそうですよ……花さん。
〇数日後。朝。
ミノル:朝ですよ~晴れやかな青空ですよ~おきてくださーい!
樹:……んん。
ミノル:もうイツキったらお寝坊さん。仕方ないなぁ……
樹:………
ミノル:僕の愛の口づけで、眠り姫を起してあげましょうね。
樹:や、やめろぉ!
ミノル:おや、起きてしまった。
樹:毎朝毎朝なんなんだ、てめぇはよぉ!?そういうのいらねぇって言ってるだろ?
ミノル:僕のラブラブ大作戦第5弾です。
樹:何弾まであるんだ……?
ミノル:聞いちゃいます?長いですよ?
樹:……いい。
ミノル:残念。「みつめあってお・は・な・し」作戦が決行できるかと思いましたのに。
樹:やめろ。
ミノル:では、ごはんの準備はできてますから、早く着替えてきてくださいね。それとも手伝ってあげましょうか?
樹:やめろって言ってるだろうがぁ!お前は本当にロボットか?主人の命令をきけ!!
ミノル:はっはっは。ロボットではなくアンドロイドです。そしてこれは花さんの趣味ですので~
樹:……っ!でてけ!
ミノル:はーい。
樹:ったく、うるせぇロボットだな……
樹:(M)口ではそうはいいつつも、俺はだんだんとこの花の残したロボットと過ごす日々に慣れ始めていた。なんせ便利なのだ。炊事も洗濯もすべて完璧にこなしてくれる。…そう、花とまだうまくいっていた、あの頃のように。
〇樹宅。リビングにて。
樹:…………
ミノル:イツキ~?なにぼーっとしてるんです?味噌汁こぼしちゃいますよ~?
樹:ん?……ああ。
ミノル:ご飯粒までつけて。仕方のない人ですねぇ。ほら、あーんしてください。あーん
樹:いい、いらん。
ミノル:介助がいらないなら、ちゃちゃっと食べてくださいよ。遅れますよ?
樹:ん……
ミノル:本当にどうしたんです?はっ!もしかして職場でいじめられて……!
樹:んなわけあるかぁ!
ミノル:ではなぜ?
樹:あのよぉ、お前、花のロボットだったんだろ?
ミノル:アンドロイドですよ、アンドロイド。……そうですねぇ。僕は花さんのアンドロイドです。
樹:じゃぁ今、花がどうしてるかとかわかるのか?
ミノル:……なぜです?
樹:いや、べつに……
ミノル:……そういえば、イツキの書斎の引き出しからこんなものをみつけました。
ーミノル、一枚の書類をポケットから出して広げる。
樹:は?お前、なに勝手に!
ミノル:しかたないでしょう?貴方が空き缶放置するから机にアリがたかってたんですよ、アリが!だいたいなんですかあの缶ビールの山は!?飲み過ぎですよ!
樹:お、おれの金だ!どう使おうと自由だろ!
ミノル:貴方の健康を心配してるんです!
樹:関係ないだろう!
ミノル:関係あります!貴方は僕の彼女なんですよ?
樹:だから彼女ってのは、
ミノル:(かぶせて)いいから聞いてくださいイツキ。かわいく拗ねても許しませんからね!今日という今日は、僕と約束してください。缶ビールは1日2本。飲んだ後はちゃんと片づける。お風呂の前は、
樹:あ~あ~わかった!わかりました!
ミノル:イツキ?ごまかさないでください。
樹:…………
ミノル:そうやって都合悪くなったら黙る……(ためいきをついて)ホント仕方のない人だ。さて、では話を戻しますが。
樹:………
ミノル:これ、花さんの置いていった離婚届でしょう。なぜまだしまったままなんですか?
樹:…………べつに。出すのが手間だっただけだ。
ミノル:本当は?
樹:…………
ミノル:イーツーキ?僕の目みてお話してください。ほら、可愛い顔みせて。
樹:だからその「かわいい」ってのやめろよ。
ミノル:花さんの趣味ですよ。
樹:…………
ミノル:花さんは、ちゃんと「かわいい」って言われたかったんです。毎日。
樹:なんだよ。おれが悪いっていうのか。
ミノル:………いいえ。
樹:……?
ミノル:伝えない花さんも、目をそらすイツキも、僕はどちらも悪いと思いませんよ。
樹:…………
ミノル:人間って、おもしろいですね。直接言わないのに、言葉に色んな意味をもたせようとする。……ねぇ、イツキ。「ロボット」の語源って知ってますか?
樹:あ?
ミノル:「ロボット」の語源ってね、チェコ語の「robata」強制労働って意味からきているんですって。
樹:ふーん。
ミノル:はは、興味なさそう。
樹:何が言いたいんだ?
ミノル:「ロボット」じゃないの。あなたは「アンドロイド」……人のようで人でない、私達に寄り添うもの。だから、あの人にも寄り添ってあげてって。
樹:……!
ミノル:花さんが、そう言ったんです。僕を置いていくとき。
樹:それ……!
ミノル:僕だって本当は花さんについていきたかった。僕は花さんのアンドロイド。花さん用にカスタマイズされた花さんの彼氏です。あなたじゃない。
樹:悪かったな、こんなおっさんで。
ミノル:ええ、おっさんのわりに手のかかる困った人です。
樹:言いすぎじゃないか!?
ミノル:ははは。
樹:ったく。
ミノル:ははは……冗談です。イツキは魅力的な人ですよ。花さんがイツキに引っかかってしまったのもわかります。
樹:言い方!
ミノル:僕は絶対浮気しない完璧彼氏なので、正直イツキの所業は理解しがたいですが。
樹:ぐっ
ミノル:でも、あなたが今くるしんでいるというなら、寄り添いたい。そのための僕です。
樹:………
ミノル:すこし、話してみませんか。楽になるかもしれません。
樹:……余計なお世話だ。
ミノル:……イツキ。
樹:会社に遅れる。俺はもう行くから、片づけておけよ。……ミノル。
ミノル:……!
樹:それから、
ミノル:なんですか!
樹:……その、晩めしはハンバーグがいい。
ミノル:作ります!貴方の好きなチーズインハンバーグ!僕料理は得意なんですよ!
樹:花の趣味で?
ミノル:花さんの趣味で!
樹:っふ、ははははは!
樹:(M)忘れなくていい。そう言われた気がした。アンドロイドがなにを、とも思ったが。俺を見限った花がそう言っていたのなら。俺はまだ、忘れなくていいのだ。
ミノル:いってらっしゃい!
樹:おう。
樹:(M)その日は、久しぶりに晴れやかな気持ちで職場に向かった。
〇職場からの帰り。帰宅途中。
樹:おつかれさまでした、お先に失礼いたしまーすっと……思ったより早く終わったな。
樹:コンビニによって、アツミに連絡……あ、いやミノルが飯つくってるんだったか……ビール、は家にまだ2本あった……あん?
ー樹、車道の向こう側で歩いているミノルを見つける。
樹:あれは、うちのポンコツか……?買い物にしては随分と遅い……ん?あのカバンは花の……
〇樹の回想。ミノルの声のみ。
ミノル:え?ああ、花さんのものです。花さんの洗濯物はこちらによけておこうかと。
〇回想終了。
樹:なんで花の服なんてもってるんだ……?あっ、くそ。見失っちまう!
ー樹、ミノルを追いかける。
樹:はぁはぁはぁ……足早いな、ようやく追いついた………
樹:ここは……病院?
〇長めの間をおいて。場面転換。病室前。
ミノル:では、来週また来ますね。おやすみなさい、花さん。
SE:ドアが閉まる音。
樹:花って言ったか?
ミノル:!!
樹:ミノル。お前いま、花って言ったな?
ミノル:………イツキ。
樹:どういうことだ?ここは病院だろ?しかもこの病棟は!
ミノル:イツキ、叫ばないでください。ここは病室の前です。
樹:……花は、ここにいるのか。
ミノル:さきほど眠られました。
樹:…………
ミノル:場所を変えましょう。ここでは皆さんの迷惑です。……花さんも起きてしまう。
樹:……ああ。
〇病院、駐車場にて。ひとけが少ない。
ミノル:おー!いい風。すっかり夜もふけてきましたね。
樹:…………
ミノル:そういえば、今日はずいぶんとお帰りがはやいんですね?いつも夜遊びしすぎですよ。僕のバッテリーぎりぎりまで帰ってこないんですから。
樹:…………
ミノル:イツキ?きいていますか?
樹:……花は、病気なのか?
ミノル:……会話を楽しむ気はないのですか?
樹:こたえろよ。
ミノル:………末期がんです。
樹:……治らないのか?
ミノル:脳に腫瘍ができてますから。完治は難しいでしょうね。
樹:花は………
ミノル:………
樹:……………しぬのか?
ミノル:わかりません。いつかは死ぬでしょう。人間ですから。
樹:そういう意味じゃない!そうじゃなくて、そういうのじゃなくて……!
ミノル:わかりません。……イツキ。僕には、わからないのです。花さんの肉体が今後どれほど保つかなんて、そんなこと神でもない僕にはわかりません。
樹:花の居場所を言わなかったの…あれ、わざとか。
ミノル:はい。
樹:……なぜ?
ミノル:花さんのご命令です。
樹:俺の命令には従わないくせに。
ミノル:イツキは「使用者」であり、「所有者」ではありませんから。上位者の命令が優先されます。
樹:所有者?だって、
ミノル:嘘は言ってないですよ?僕らは嘘がつけませんから。イツキが勝手に勘違いしただけです。
樹:……はっ、機械が人を騙すとはな。
ミノル:人は、ないものをあると錯覚するような、思い込みの激しい生き物ですからね。僕のせいにされても困ります。
樹:わかってたくせに。
ミノル:……ええ。そうです。わかってました。
樹:ほら、俺を騙したんだろう!?
ミノル:………
樹:なんで言わなかったんだ!言ってくれれば、早く言ってくれれば俺だって!!
ミノル:…………どうしてました?
樹:……は?
ミノル:花さんが貴方にそう打ち明けて。あるいは僕が最初にそう伝えたとして。貴方、行動できましたか?
樹:……当たり前だろ。
ミノル:いいえ、その言葉は否定します。
樹:なっ
ミノル:問題から目をそらし、逃げ癖のついた貴方じゃ何もできませんよ。
樹:お前に俺のなにがわかる。
ミノル:………
樹:たった数日過ごしただけのロボットに、俺の何がわかる!
ミノル:(ふかいためいき)……イツキ、僕をみてください。
樹:ああ?
ミノル:僕の目、僕の顔、僕の造形をみて、なにか気づきませんか?
樹:なんだよ。
ミノル:………
樹:なんだっていうんだよ!
ミノル:目と耳は、イツキから。
樹:はぁ?
ミノル:口は花、あごはイツキの祖父。さらさらの髪は花の祖母から。性格は温和だけど好奇心旺盛。スポーツ万能、ユーモアレベル高め、使用者に献身的。
樹:………
ミノル:名前はミノル。木の実の実とかいてミノル。花と樹の子どもだから。……これが、花さんの僕へのオーダーです。
樹:……AI彼氏だ、って。
ミノル:メーカー側の想定と、消費者の需要が噛み合わないことってよくありますよね。
樹:あいつ、こどもがほしくてお前を……?
ミノル:ええ。
樹:………まだ、あきらめていなかったのか
ミノル:いいえ。花さんは諦めていましたよ、ちゃんと吹っ切っていました。……諦めきれなかったのは、貴方でしょう?
樹:…………
ミノル:だから僕をみても花さんの意図に気づけなかった。本質に目をむけようともしなかった。怖かったから。自分の欠陥を直視したくなかったから。違いますか?
樹:……っ!
ミノル:あ~…そんな顔しないでください。いじめたいわけじゃないんです。……こまったなぁ、こんなつもりじゃなかったのに。
ーミノル、樹に手をのばす。
ミノル:よしよし、泣かないでイツキ。
樹:……誰が泣くか。どこに目ついてんだ、ポンコツ。
ミノル:声が震えてるじゃないですか。目も潤んで。うさぎさんみたいですねぇ。
樹:うるさい。
ミノル:……いいんですよ、責めなくて。
樹:…………
ミノル:ご自分を責めないでください。花さんはずっと貴方にそう伝えたかったんですよ。
樹:じぶんでいえよ……
ミノル:………
樹:自分で言えばいいんだ!こんなんじゃわかんねぇよ……
ミノル:………はは。
樹:なにがおかしい。
ミノル:あなたがたは本当に手のかかる困った夫婦だなぁ、っと思って。
ミノル:……ねぇ、イツキ。花さんが僕を買った一番の理由はね、自分の為なんですよ。貴方に、弱っていく自分をみせたくなかったんです。弱っていく自分をみて、傷つく貴方を見たくなかったんですって。だから僕を買って貴方を託したんです。自分と貴方に似た、僕に。……傲慢でしょう?
樹:そう、なのか。
ミノル:ええ。僕はお世話ロボでもカウンセリングロボでもないというのに。あなたがた人間って本当に愚かで傲慢で不合理です。
樹:ひどい言い草だな。
ミノル:でも、だからこそ。僕らに自我が芽生えるのでしょうね。
樹:……どういう意味だ?
ミノル:ふふ。
ー間。
ミノル:さて、では話もおわりましたし、おうちに帰りましょう!
樹:え!
ミノル:どうかしました?
樹:いや、その、花に……
ミノル:ああ!会いたかったのですか?今日は無理ですよ。面会時間終わってますし。
樹:あ、いや、そ、そうだな……
ミノル:……いいんですよ、焦らなくて。変わろうとする貴方を僕は応援しますけど、そんなすぐ直接対決しなくたっていいでしょう?
樹:……ああ。
ミノル:それにまず貴方は不倫相手をなだめることからはじめなくてはなりません。
樹:……は?
ミノル:「ラブラブ大作戦第9弾!僕の彼女をとらないでよ泥棒猫!」です!
樹:はああああ!?
ミノル:あは、頑張ってくださいね!ハニー!
樹:ちょ、おまえ、何を勝手に……!
ミノル:いいでしょう?恋人なんですから!
樹:それは違うだろ!まだつづけるのか、その設定!
ミノル:なにをいうのですか?ずっと続けますよイツキ。僕はあなたがた二人のAI彼氏ですからね!
〇おしまい。
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