台本/ララバイ・ハミングバード(女2)

〇作品概要説明。

主要人物2人。ト書き含めて約8000字。滅亡した世界でひまわり畑を探しに行くだけの話。


〇登場人物

紗季:脱走者。

飛鳥:死んでる。


〇ご利用前に注意事項の確認をよろしくお願いいたします。

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作者:七枝


本文



〇Mはモノローグ。

紗希:(M)大多数の人類が消えて233日。

紗希:(M)彼女は唐突に、私の元へ戻ってきた。

飛鳥:やっほ、さき。

紗希:あすか……?

飛鳥:なさけない顔。

紗希:あなた、どうして?

飛鳥:ん~……ほら、お盆だから?帰ってきちゃった。

紗希:はぁ!?

飛鳥:ね、どうしたの?防護服もなしで。夜逃げ?

紗希:………みりゃわかるでしょ。

飛鳥:せっかくみつけたコロニーだったのに。

紗希:………

飛鳥:いいじゃん、すこしくらいさぁ。我慢しなよ。

紗希:……いやよ。

飛鳥:どうしても?

紗希:どうしても。

飛鳥:そ。あんた、しぬよ?

紗希:覚悟の上だわ。一応準備はしてる。

飛鳥:ほうほう。すっごい食料つめこんでるぅ。こんだけ盗んだらさぞ恨まれそうだね。

紗希:戻る気はないの。

飛鳥:そりゃそうだ。これで戻ったら馬鹿でしょ。

紗希:わかってるわ、っと!

〇紗希、飛鳥のすぐ横の壁を蹴る。崩れた壁の中にバギーが隠されている

飛鳥:うひゃあ!な、なに!!

紗希:これ、移動手段。

飛鳥:これバギー?あんたずいぶんどでかいもん盗んできたね!?

紗希:いいでしょこれくらい。正当な取り分よ。

飛鳥:なんの?

紗希:……わたしのいのちの?

飛鳥:あんたの命なんてそんな上等なもんじゃないでしょ!(わらう)よっと。

〇飛鳥、バギーにのりこむ。

紗希:ちょっ、あなたついてくるの?

飛鳥:あったりまえでしょ~お盆が何日あると思ってんの。

紗希:他行きなさいよ!他へっ

飛鳥:ざんね~ん。あんた以外みんな死んでますぅ

紗希:はぁ?じゃあ天国で休んでればぁ?

飛鳥:ひゅ~!さきちゃんは私が天国行ける女だとおもったの?

紗希:地獄へかえれ!性悪女!

飛鳥:はははっ……ほら。

紗希:………

飛鳥:逃げるんでしょ?はやくいこうよ。

紗希:………ん。

紗希:(M)幽霊なのに。死んでいるはずなのに。飛鳥の手は温かった。

飛鳥:さぁて!人生最期の旅にしゅっぱつしんこーだ!

紗希:(M)そうして、私は逃げ出した。人類数少ない生存圏【エリア20】から外の世界へ。

紗希:(M)砂塵渦巻く死の世界へ、亡くなったはずの友人と共に。

〇場面転換。バギーに乗りながら話すふたり。

飛鳥:それでさぁ、どこに行くの?

紗希: ………

飛鳥:さーき。

紗希:ちょっ、つつくな!

飛鳥:答えてくれないそっちが悪いんでしょ~

紗希:……ナヨロ。

飛鳥:なよろ~?なんでまた。

紗希:あなた、見たいっていってたじゃない。

飛鳥:へ?

紗希:ナヨロのひまわり畑。

飛鳥:………もうないよ。

紗希:わかってる。でも行くの。

飛鳥:馬鹿だなぁ、全部砂の中だよ。

紗希:いいの!それでも行くの!

紗希:(M)ハンドルを切って、砂塵の中を突っ切る。後ろにいる飛鳥から、呆れたようなため息が聞こえた。

   間。

〇世界観説明と回想。

紗希:(M)いつからか、は正確にはわからない。そのころの私は平凡な女子高生だったし、ニュースに興味なかったから。でもいつからか、異常気象がやたらと取り沙汰にされるようになって、乾燥注意報が乾燥警報になるのも、日常になっていった。

飛鳥:あっちぃ~

紗希:ちょっと飛鳥。私の机の上で寝そべらないでよ。

飛鳥:だって夜、眠れないんだもん。寝苦しくてさぁ~

紗希:ほんと困るよね。もう冬よ。

飛鳥:今年はホワイトクリスマスはなしかな~

紗希:何言ってんの。

飛鳥:いやガチな話。最近雪どころか雨もみてないよね。

紗希:その話、もう耳タコ。

飛鳥:ははっ、私も。どうなっちゃってんだろうね~

紗希:原因不明だってニュースでは言ってたけど。

飛鳥:「地球が悲鳴をあげてるんですぅ」

紗希:うっわ。

飛鳥:ゴキブリみたような反応しないでよ。

紗希:例の街頭インタビューでしょ?グリーンなんちゃら教の。

飛鳥:そうそう。

紗希:あーいうのなんなのかしらね。キモイんですけど。

飛鳥:信じてる人もいるんだから、そう毛嫌いしなさんな。

紗希:でもあいつらマジでヤバくない?絶対なにかやらかすわよ。

飛鳥:そーね。

紗希:やだなぁ、どうする?核とか落ちたら?

飛鳥:なにそれ?飛躍しすぎじゃない?

紗希:ほら、汚物は消毒だ~!みたいなの。

飛鳥:人類が死ねば地球が助かる~!って?

紗希:そう。

飛鳥:アホじゃん?

紗希:え~?

飛鳥:起こるわけないって、そんなこと。

〇回想おわり。

紗希:(M)起こった。そんな「アホなこと」がいともたやすく。原因は、一国の首脳がそんな「アホなこと」を信じたからだった。

紗希:(M)あとは転がる石のように単純だ。私達人間の住めるところはどんどん少なくなっていって、暴動とか犯罪とかも起きて、家族ともはぐれてしまった。

紗希:(M)連絡手段なんてとうに無かった。身寄りもなく、どうしようもなくなった私は、たまたまそばにいた飛鳥と、避難所を求めてさ迷った。いつかきっと元の日常が戻ってくると信じて。でも、

飛鳥:でもさぁ~……やっぱりダメだったわ。

紗希:なにが?

飛鳥:家族。

紗希:………

飛鳥:死んでた。やっぱり。

紗希:……会えたの?

飛鳥:会えてないよ?会えるわけないじゃん、私地獄行きだもん。

紗希:じゃあなんで?

飛鳥:ふつーこういうのは家族の元にいくもんでしょ。なのに、あんたんとこ辿りついたから。

紗希:迷っただけじゃない?飛鳥、方向音痴だし。

飛鳥:いやいやあんたいっつもそう言うけど、それ私のせいじゃないから。あんただから。

紗希:いやいや。

飛鳥:いやいやいやいや。

紗希:いやいやいやいやいや。

飛鳥:いや、絶対紗希だから!

紗希:飛鳥でしょ!何回あなたの夜中のトイレに付き合ったと思ってんのよ!

飛鳥:あれはそうしなきゃ襲われるからっ……あ。

紗希:え?

飛鳥:…………

紗希:え、なにそれ。なにがあったの?あなたなんでそれ言わないの?

飛鳥:………だってさぁ。

紗希:なによ。

飛鳥:言えるわけないじゃん。あの頃の紗希、いっつもピリピリしてたし、強がってたし?これ以上なんか言ったら壊れそうだったんだもん。

紗希:そんなやわじゃないわよ。

飛鳥:ただでさえ私達よそ者でさぁ。配給もなんか少なかったし?耐えてたわけよ。けなげ~

紗希:そういうのは健気じゃなくてエゴっていうのよ。

飛鳥:むぅ。私のがんばりをちょっとぐらい褒めてくださいよ~

紗希:しるか。

飛鳥:さきぃ。

紗希:一人で勝手に死にやがって。

飛鳥:…………

紗希:置いていかれた私のことも、考えないで。

飛鳥:………ごめんね。

紗希:………ふん

   間。

飛鳥:ナヨロはさぁ、ここからどれくらい遠いの?

紗希:無事に道路が使えたら25時間くらい。

飛鳥:意外にちかい!

紗希:でしょ。

飛鳥:え、でもまって?ナヨロって本州から離れてるよね?フェリー乗らないと無理だよね?

紗希:そこはさぁ、あるじゃない。トンネルが。

飛鳥:まさか……

紗希:そう!セイカントンネル~!

飛鳥:嘘でしょ!あそこ車通れないじゃん!むりじゃん!

紗希:無理じゃないんだな~伊達に人類衰退してるわけじゃないのよ。

飛鳥:あ……?そっか、誰もいない今なら侵入できる可能性も……?

紗希:巡回車とか通ってたスペースはあるだろうしね。

飛鳥:トンネルが崩落してなければ、でしょ。

紗希:そこは運。

飛鳥:運かぁ。

紗希:私達、運で生き残ってきたようなもんだし。

飛鳥:私死んでますけど。

紗希:今ここにいるでしょ。

飛鳥:そう思う?

紗希:……え?

飛鳥:今ここにいる私が、紗希の妄想じゃなくて現実の私なんだと、本当にそう思う?

紗希:……こわいこという。

飛鳥:えへへへへ!

紗希:笑うな!

飛鳥:げへへへへ!

紗希:笑い方変えればいいってわけじゃないからな!

飛鳥:だって紗希いじめるからさぁ。仕返し。

紗希:いじめてないし。

飛鳥:いじめたもん。

紗希:いじめてないって。

飛鳥:いじめたよ。……私だって、好きで死んだわけじゃないのにさ。

紗希:それは………でも。

飛鳥:………いいよ。気持ちはわかるから。だから化けてでてきたわけだし。

紗希:言い方!

飛鳥:あははははっ!

紗希:(M)古ぼけた地図をたよりに、進路はひたすら北へ。砂塵はひどいし、道路はでこぼこだ。ときおり、人だか動物だかわからない死骸を轢いてしまうこともある。それでも私は、私達はひたすら進んだ。戻る道など、ありはしないのだから。

飛鳥:うひゃー!

紗希:ここがセイカントンネル……

飛鳥:線路に侵入するのってめっちゃどきどきしない?

紗希:する。心臓飛び出るかと思った。

飛鳥:トンネルを抜けたら、ついに雪国かぁ……

紗希:ちょっとさ、ワクワクするわ。

飛鳥:わかる。ふたりで話し合ったもんね、昔。

紗希:ん?

飛鳥:昔、っていうか一年前?卒業旅行どこいこうか話してたじゃん。

紗希:ああ……

飛鳥:ねぇ、だからわざわざナヨロいくんでしょ?そうでしょ?

紗希:……まあね。

飛鳥:お、素直!

紗希:ここまできて意地を張る方が馬鹿でしょ。

飛鳥:まあねぇ。命がけできてるわけだし。

紗希:では、ここから約54kmトンネルの旅!と、いきたいとこですが。

飛鳥:とこですが?

紗希:今日はもう寝よ。ここなら雨風しのげるし。

飛鳥:ワ、ワイルドー!

紗希:ほかにどうしろっていうのよ。

飛鳥:ほら、道すがら民家あったじゃん。

紗希:あったねぇ、バリケードされてたけど。

飛鳥:それをさ、こう、バールのようなもので、くいっと。

紗希:くいっと?

飛鳥:ぐいっかもしれないけど。

紗希:擬音はどうでもいいんだわ。

飛鳥:じゃあ、くいっとして侵入すりゃいいじゃん。

紗希:んー……嫌。

飛鳥:嫌!?え、なんで!

紗希:そーいうのギリギリまでしたくない。

飛鳥:前はふつーにしてたじゃん!

紗希:前は前。今は今。

飛鳥:ええ、なんで!

紗希:あいつらと同じになりたくないから。

飛鳥:…………

紗希:あんたを殺した、あいつらと同じになりたくないからやめたの。

飛鳥:馬鹿じゃん。

紗希:かもね。

飛鳥:………さき。

紗希:何よ。

飛鳥:(何かを言いかけてやめる)

紗希:何が言いたいの、飛鳥?

飛鳥:……ううん。卒業旅行、楽しみだね。

紗希:卒業旅行って(笑う)

飛鳥:でしょ?

紗希:……だね。

紗希:(M)差し出された手をそっと握る。……あたたかい。これがたとえ、私自身の体温だったとしても、私は私の信じたいものを信じよう。そう決めて、そっと目を閉じた。

   間。

〇翌朝。

飛鳥:うーん、気持ちのいい朝~じゃ、ない!

紗希:しょうがないでしょ。早くに出なきゃ間に合わないんだから。(咳)

飛鳥:でもこれでトンネルぬけたし、もうひとふんばりだね!

紗希:そうね。もうひとふんばり660キロ。

飛鳥:うわぁ……

紗希:(激しい咳)

飛鳥:ちょっと、紗希。大丈夫?

紗希:大丈夫。わかってたことだから。薬も用意してあるし。

飛鳥:ねぇ、紗希。もしかしたら他のコロニーが道中にあるかもしれないしさ。そしたら、

紗希(かぶせて)いかない。

飛鳥:………

紗希:どうせどこのコロニーも一緒じゃない。よそ者に冷たく、意地悪な人ばっかり。もうそんなとこ行かないわ。

飛鳥:でも、あいつらじゃなければまだ……

紗希:嫌よ!……うっ、ごほごほっ

飛鳥:紗希!

紗希:嫌。もういや……もうあんなとこにはいたくない。

飛鳥:…………

紗希:それに。あんたのお盆だってまだ終わっちゃいないでしょ?最後まで付き合いなさいよ。

飛鳥:……わかった。

紗希:それでこそ飛鳥。

飛鳥:……えへへ。

〇再び二人でバギーに乗り込む。

飛鳥:ねーえー

紗希:なーにー

飛鳥:このままさぁ、どこまでも一緒にいけたらいいのにね。

紗希:馬鹿じゃないの。

飛鳥:なんでよぅ。

紗希:終わりがあるからわくわくするのよ。目的地があるから旅って楽しいんでしょ。

飛鳥:そっか。……ねぇ。

紗希:ん?

飛鳥:卒業旅行、楽しくしようね。

紗希:今でも十分楽しいわ。……(小声で)あなたがいるから。

飛鳥:なにー?ききとれなかった!

紗希:なんでもないっ

紗希:(M)砂煙がまきあがり、肺を濁った空気が埋めつくす。毒の空気だ。人類を衰退させた死の世界だ。それでも今、私の振動はバギーのエンジンと共鳴して、勢いよく跳ねていた。素晴らしい未来を、ガラにもなく思い描いた。

飛鳥:(M)………そんなもの、ありもしないのに。

   間

〇ふたり、バギーから降りてあたりをみわたす。

紗希:げっ

飛鳥:いやーん

紗希:橋がなくなってる……

飛鳥:コンクリって意外ともろいねぇ

紗希:整備する人がいないからね……(咳)

飛鳥:……今日はもうやすむ?

紗希:馬鹿。日が落ちるまで進むわよ。さっきのガソリンスタンドまで戻れば遠回りできるはず……あっ!

飛鳥:紗希!

〇紗希、バランスを崩し勢いよく転倒する

紗希:っく、だ、だいじょう(激しくせき込む)

飛鳥:紗希、やすもう?民家がだめなら、そのへんのホテル……そうだ、さっきラブホがあったじゃん!そこいこう?

紗希:嫌。

飛鳥:無理したっていいことないよ?

紗希:絶対嫌。

飛鳥:さき!

紗希:だって、あんたいつまで一緒にいてくれるの?明日にでも消えてるんじゃないの?お盆だから帰ってきたってなに?いやよ、目をつぶる度にあんたがまたいなくなったらどうしようと思うのは。いやなの、考えたくないの。それくらいなら多少無理したって進めるとこまで進みたい。

飛鳥:でもっ

紗希:どうせ死ぬじゃない!

飛鳥:………っ!

紗希:こうして外に出た以上、どうせ死ぬじゃない……

飛鳥:……でも、それでも。私は紗希に少しでも生きてほしいよ。

紗希:…………

飛鳥:ほら、立って。もう少し進んだら、しっかり休もう?

紗希:うん……

飛鳥:…………

〇紗希、ひとりで立ち上がりバギーに乗り込む。

   場面転換

   間。

〇世界観説明つづき。Mはモノローグ。

紗希:(M)すこし、人類衰退までの道筋を整理しようか。

飛鳥:(M)大国の首脳を信じ込ませた宗教・通称「グリーンアース教」の、その主張は当初、「私達の星を守ろう」だけだった。実に単純明快。それだけなら素晴らしいことだし、好きにやってろっていう感じだけど、厄介になったのが過激派。「星を守るために人類を削減しよう」と主張する連中だ。

紗希:(M)最初は奇異の目でみられた彼らだったけど、機運がよかったのだろう。続く異常気象とそれによって引き起こされるハプニングによって、徐々にその勢力を伸ばしていった。

飛鳥:(M)そして2026年、冬。ついに彼らは一つの発明を成し遂げた。

紗希:(M)以後、「M307」そう呼ばれるそのウイルスは、彼らにとって画期的な発明だった。ウイルスに感染すると、咳、発熱、五感の麻痺や重度の幻覚等を引き起こし、80%の確率で一週間以内に死に至る。もちろん、既存の薬学で太刀打ちできるワクチンはない。

飛鳥:(M)ウイルスは、「特別な信者」によって、ある冬の日、空中にばら撒かれた。世界中に。同時多発的に。国家規模の、無作為なバイオテロだった。

紗希:(M)たくさんの人が死んだ。たくさんの人が悲しんだ。公共機関も電子器具も、ほとんど使えなくなった。……当たり前だ。仕事する人がいないのだから。

飛鳥:(M)それでもなんとか生き残った人々は、汚染されてない数少ない生存圏で、息をひそめるように生きている。外の世界が、いつか自然に浄化されることを願って。

紗希:(M)皮肉なことに、このウイルスは彼らの守りたかった「グリーン」にも作用した。……おかげさまで、植物はほとんど枯れはて、死の世界にふさわしい砂の光景が外には広がっている。

飛鳥:(M)だから、紗希の言う、「ひまわり畑」なんてどこにもあるはずがない。

紗希:(M)それでも進みたい。進むしかないのだ。私の希望はそこにしかないのだから。

飛鳥:(M)……最初から、希望なんかないって知っているのに?

   場面転換。

   間。

〇三日目の朝。

紗希:(激しい咳)

飛鳥:………

紗希:(大きく深呼吸して)よし、今日も進むわよ。

紗希:進路は北西ね。昨日だいぶ遠回りしたけれど、今日の夕方までには着くはず……飛鳥?

飛鳥:ん?

紗希:さっきから無言だけど。どうかした?

飛鳥:あ~……えっと、紗希。ほんとうに大丈夫なの?もう一泊して休んでいけば?

紗希:なにいってんの。

飛鳥:………

紗希:これは休んだって治らないって、あなたもよく知ってるでしょ。

飛鳥:そうだけど………

紗希:いくよ。時間がないの。今日には辿り着かなきゃ。

飛鳥:………

紗希:飛鳥?

飛鳥:………今乗る。

紗希:早くして。

〇飛鳥と紗希、バギーに乗り込む。

紗希:昨日のとこからだいぶリカバリーできたわ。あとは、ここの交差点を左に曲がって、道なりに30キロ行けば目的地よ。

飛鳥:ずいぶん坂が多いね。燃料大丈夫?

紗希:ギリギリってとこかも。

飛鳥:……帰りの分は、用意してないんだね。

紗希:え?

飛鳥:なんでもない。いこう。

紗希:…………

   少し間をおいて。

飛鳥:ねぇ、紗希。

紗希:(咳をしながら)なに?

飛鳥:紗希はさぁ、ナヨロについたらどうすんの?

紗希:どうするって?

飛鳥:どうせさぁ、ひまわり畑なんてあるはずないじゃん。砂地じゃん。

紗希:…………

飛鳥:それみてさぁ、はいさよなら。って帰るの?無駄じゃない?それするくらいなら、ここらへんで諦めて食料の捜索とかする方がいーんじゃない?

紗希:でも行くの。

飛鳥:……なんで?

紗希:あなたがみたいっていったからでしょ!だから行くの!

飛鳥:…………

紗希:そうでしょ?飛鳥言ってたじゃない。2人で旅行して!ナヨロのひまわりみて!SL(エスエル)乗って!お腹一杯たべて……!それで、それで……

飛鳥:家帰って、みんなにいっぱい自慢してやろう、って。……言ったね。

紗希:……そうよ。

飛鳥:……そっか。

紗希:うん。

飛鳥:なら、ついていくよ。最期まで。

紗希:……うん。

   間。

紗希:ねぇ、飛鳥!みて!

飛鳥:……なに?

紗希:坂の向こう!ほら!!

飛鳥:なーに?砂煙ひどくてなーんも見えない。

紗希:あ、そっか。あなたゴーグルしてないものね。ちょっとまっててね!もうちょっと!もうちょっとだから!

   間をおいて。

紗希:ほら、みて!ひまわりがある!!

飛鳥:(息をのむ)

紗希:すごい!なんで?ここはまだ汚染されてなかったのかしら?すごい、飛鳥!ひまわり畑よ!

飛鳥:……そう……そうだね。

〇紗希、バギーを降りて『ひまわり畑』に駆け寄る。

紗希:本当にあるなんて……!信じられない!

飛鳥:……うん。

紗希:はは……あはははは!あった!ほんとうにあったんだ!ひまわり畑はあったよ!飛鳥!!あははははははは!!

飛鳥:…………

紗希:ははは!あはははは(徐々に笑いをおさめて)……あすか?

飛鳥:なに?

紗希:嬉しくないの?

飛鳥:嬉しいよ。嬉しいに決まってんじゃん。

紗希:じゃぁ何よ、その顔。

飛鳥:ちょっと凄すぎて……信じられなくて。(鼻をすする)

紗希:ははは、なんだ。あなた泣いてんの~?やっだもう。

飛鳥:……うん。

紗希:あ~……きてよかったなぁ、ここまで。

飛鳥:紗希も泣いてんじゃん。

紗希:うん、だって……ねぇ?

飛鳥:………ふたりで、来れてよかったね。ナヨロのひまわり畑。

紗希:頑張った甲斐あった。

飛鳥:………ほんとうに。

   少し間をあけて。

紗希:……ねぇ、飛鳥。

飛鳥:んー?

紗希:あなた私の幻覚じゃないよね?本当に、ここにいるよね?

飛鳥:え、いまそれきく?

紗希:だって……

飛鳥:あんた私が最初に言ったことまだ気にしてたの?

紗希:………そーいうわけじゃないけど。

飛鳥:「仕返し」って言ったじゃん。

紗希:……ははっ、だよね。あなた、ここにいるもんね。手だって繋いでる。

飛鳥:………うん。

紗希:ならさぁ。あなた怒るかもしれないけどさぁ。

飛鳥:………

紗希:私の事、つれてってくれる?

飛鳥:……いったじゃん、私。

飛鳥:最期まで、ついていくよって。……だから、急がなくていいよ。安心して。

紗希:……そっか。

飛鳥:うん。

紗希:そうかあ……

飛鳥:そうだよ。

紗希:………じゃあ本当に急がなくてよかったのね。馬鹿だわ、わたし。

飛鳥:はは、そうだね。

飛鳥:でもふたりで卒業旅行、できてよかった。

紗希:……うん。

〇以下のセリフは、言っても言わなくてもどちらでもよい。

紗希:(M)希望なんてなくても、行く先が地獄でも。この夏だけはきっと、本物なのだ。

おしまい。

七枝の。

声劇台本おいてます。 台本をご利用の際は、注意事項の確認をお願いします。

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