〇作品概要説明。
主要人物2人。ト書き含めて約8000字。滅亡した世界でひまわり畑を探しに行くだけの話。
〇登場人物
千隼:脱走者。
飛鳥:死んでる。
〇ご利用前に注意事項の確認をよろしくお願いいたします。
https://natume552.amebaownd.com/pages/6056494/menu
作者:七枝
本文
〇本文ここから。Mはモノローグ。
千隼:(M)大多数の人類が消えて233日。
千隼:(M)彼は唐突に、俺の元へ戻ってきた。
飛鳥:やあ、ちはや。
千隼:あすか……?
飛鳥:なっさけない顔。
千隼:おまえ、どうして?
飛鳥:ん~……ほら、お盆だから?帰ってきちゃった。
千隼:はぁ!?
飛鳥:ね、どうしたの?防護服もなしで。夜逃げ?
千隼:………みりゃわかるだろ。
飛鳥:せっかくみつけたコロニーだったのに。
千隼:………
飛鳥:いいじゃん、すこしくらいさぁ。我慢しなよ。
千隼:……いやだ。
飛鳥:どうしても?
千隼:どうしても。
飛鳥:そ。きみ、しぬよ?
千隼:覚悟の上だ。一応準備はしてる。
飛鳥:ほうほう。すっごい食料つめこんでるぅ。こんだけ盗んだらさぞ恨まれそうだね。
千隼:戻る気はないからな。
飛鳥:そりゃそうだ。これで戻ったらただの馬鹿でしょ。
千隼:わかってる、っと!
〇千隼、飛鳥のすぐ横の壁を蹴る。崩れた壁の中にバギーが隠されている
飛鳥:うひゃあ!な、なに!!
千隼:移動手段。
飛鳥:これバギー?えー!かっちょいい!
千隼:だろ。
飛鳥:いいなぁいいなぁ、どこからみつけてきたんだよ、こんなん。
千隼:高橋から。
飛鳥:え!?
千隼:ばらして、ここで組み立てた。
飛鳥:ちょっ、まてよ。あの高橋から盗んだの?君ずいぶんと大胆にやらかしたね!?
千隼:いいだろ、これくらい。正当な取り分だ。
飛鳥:なんの?
千隼:……おれの命の?
飛鳥:きみの命なんてそんな上等なもんじゃないだろ!(わらう)よっと。
〇飛鳥、バギーにのりこむ。
千隼:……まて、お前ついてくるのか?
飛鳥:あったりまえ~お盆が何日あると思ってんの。
千隼:他行けよ。家族とかいるだろ。
飛鳥:ざんね~ん。きみ以外全員死んでますぅ
千隼:はぁ?じゃあ天国で休んでいればいいだろ?
飛鳥:ひゅ~!ちぃくんは僕が天国行けるタマだとおもってたの?
千隼:地獄へかえれ!
飛鳥:はははっ……ほら。
千隼:………
飛鳥:逃げるんでしょ?はやくいこうよ。
千隼:………おう。
千隼:(M)幽霊なのに。死んでいるはずなのに。飛鳥の手は温かった。
飛鳥:さぁて!人生最期の旅にしゅっぱつしんこーだ!
千隼:(M)そうして、俺は逃げ出した。人類数少ない生存圏【エリア20】から外の世界へ。
千隼:(M)砂塵渦巻く死の世界へ、亡くなったはずの友人と共に。
〇場面転換。バギーに乗りながら話すふたり。
飛鳥:それでさぁ、どこに行くの?
千隼: ………
飛鳥:ちーはーや。
千隼:ちょっ、つつくな!
飛鳥:答えてくれないそっちが悪いんだろ~
千隼:……ナヨロ。
飛鳥:ナヨロ~?なんでまた。
千隼:おまえ、見たいっていってただろ。
飛鳥:へ?
千隼:ナヨロのひまわり畑。
飛鳥:………もうないよ。
千隼:わかってる。
飛鳥:馬鹿だなぁ、全部砂の中だよ。
千隼:それでも行くんだ。
千隼:(M)ハンドルを切って、砂塵(さじん)の中を突っ切る。後ろにいる飛鳥から、呆れたようなため息が聞こえた。
間。
〇世界観説明と回想。
千隼:(M)いつからか、は正確にはわからない。そのころの俺は平凡な学生だったし、ニュースに興味なかったから。でもいつからか、異常気象がやたらと取り沙汰にされるようになって、乾燥注意報が乾燥警報になるのも、日常になっていった。
飛鳥:あっちぃ~
千隼:どけ、邪魔だ。
飛鳥:だって夜、眠れないんだもん。寝苦しくてさぁ~
千隼:まぁ、たしかに。こう熱いとな……
飛鳥:今年はホワイトクリスマスはなしかな~
千隼:何言ってんだ。年齢=恋人いない歴のくせに。
飛鳥:うっせ。
千隼:事実だろ。
飛鳥:いやガチな話。最近雪どころか雨もみてないよね。
千隼:その話はもう聞き飽きた。
飛鳥:僕も。いったい、どうなっちゃってんだろうね~
千隼:原因不明だってニュースでは言っていたが。
飛鳥:「地球が悲鳴をあげてるんですぅ」
千隼:うっわ。
飛鳥:ゴキブリみたような反応しないでよ。
千隼:例の街頭インタビューだろ。
飛鳥:そうそう。
千隼:あーいうやつらの気が知れんな。馬鹿か?
飛鳥:信じてる人もいるんだから、そう毛嫌いしなさんな。
千隼:距離を置くのは間違ってないだろ。あいつら絶対なにかやらかすぞ。
飛鳥:そーね。
千隼:不穏なニュースばっかだな……
飛鳥:ねぇねぇ、どうする?核とか落ちたら?
千隼:なんだそれ?飛躍しすぎじゃないか?
飛鳥:ほら、汚物は消毒だ~!みたいなの。
千隼:人類が死ねば地球が助かる~!って?
飛鳥:そう。
千隼:アホか。
飛鳥:え~?
千隼:起こるわけないって、そんなこと。
〇回想おわり。
千隼:(M)起こった。そんな「アホなこと」がいともたやすく。原因は、一国の首脳がそんな「アホなこと」を信じたからだった。
千隼:(M)あとは転がる石のように単純だ。俺達人間の住めるところはどんどん少なくなっていって、暴動とか犯罪とかも起きて、家族ともはぐれてしまった。
千隼:(M)連絡手段なんてとうに無かった。身寄りもなく、どうしようもなくなった俺は、たまたまそばにいた飛鳥と、避難所を求めてさ迷った。いつかきっと元の日常が戻ってくると信じて。だが、
飛鳥:でもさぁ~……やっぱりダメだったわ。
千隼:なにが?
飛鳥:家族。
千隼:………
飛鳥:死んでた。やっぱり。
千隼:……向こうで会えたのか?
飛鳥:会えてないよ?会えるわけないじゃん、僕地獄行きだって言ったろ。
千隼:ならなぜ?
飛鳥:ふつーこういうのは家族の元にいくもんでしょ。なのに、きみんとこ辿りついたから。
千隼:おまえ方向音痴なんだから、迷っただけだろ?
飛鳥:いやいやきみ、いっつもそう言うけどね、それ僕のせいじゃないから。方向音痴なのはきみだから。
千隼:いやいや。
飛鳥:いやいやいやいや。
千隼:いやいやいやいやいや。
飛鳥:いや、絶対千隼だから!
千隼:飛鳥だろ。何回おまえに付き合ってエリア移動したと思ってんだ。
飛鳥:あれはしつこく襲われるからっ……あ。
千隼:は?
飛鳥:…………
千隼: なぜそれを言わなかった。
飛鳥:………だってさぁ。
千隼:なんだ。
飛鳥:言えるわけないじゃん。いじめられてこわいよ~ピエーンなんてさ。
千隼:……忍耐強いお前のことだ。よほどしつこくされなきゃ逃げたりしないだろ。
飛鳥:わーい、僕ほめられてるぅ?
千隼:ふざけるな。
飛鳥:えへ。
千隼:かわいくねーぞ。
飛鳥:……ほんと、そんなたいしたことなかったんだけどね。初期は避難先から避難するの流行ってたからちょうどいいかな~って。
千隼:こっちはふらふらしっぱなしのお前から目が離せなかった。
飛鳥:………これでも気は使ってたんだよ?あの頃の千隼、いっつもピリピリしてたし、強がってたし?これ以上負担かけちゃいけないだろうな~って。
千隼:そんなやわじゃない。
飛鳥:ただでさえ僕達よそ者でさぁ。どこでもなんとなーく冷遇されてたし?耐えてたわけよ。けなげ~
千隼:そういうのは健気じゃなくてエゴっていうんだ。
飛鳥:むぅ。僕のがんばりをちょっとぐらい褒めてくださいよ~
千隼:しるか。
飛鳥:ちはやぁ
千隼:一人で勝手に死にやがって。
飛鳥:…………
千隼:置いていかれた俺のことも、考えないで。
飛鳥:………ごめんね。
千隼:………ふん
飛鳥:ナヨロはさぁ、ここからどれくらい遠いの?
千隼:無事に道路が使えたら25時間くらい。
飛鳥:意外にちかい!
千隼:だろ。
飛鳥:まって?ナヨロって本州から離れてるよね?フェリー乗らないと無理だよね?
千隼:そこはトンネルがあるだろ。
飛鳥:まさか……
千隼:そう、セイカントンネル。
飛鳥:嘘でしょ!あそこ車通れないじゃん!むりじゃん!
千隼:ふふん。策があるんだ。策が。
飛鳥:策……?
千隼:伊達に人類衰退してるわけじゃないからな。
飛鳥:あ、そっか。誰もいない今なら侵入できる可能性も……?え、でもそれ策っていう?
千隼:(無視して)巡回車とか通ってたスペースもあるだろうから、いけるだろ。
飛鳥:トンネルが崩落してなければ、でしょ。
千隼:そこは運。
飛鳥:運かぁ。
千隼:俺達、運で生き残ってきたようなもんだしな。
飛鳥:僕死んでますけど。
千隼:今ここにいるだろ。
飛鳥:そう思う?
千隼:……え?
飛鳥:今ここにいる僕が、千隼の妄想じゃなくて現実の僕なんだと、本当にそう思う?
千隼:……こわいこという。
飛鳥:えへへへへ!
千隼:笑うな!
飛鳥:げへへへへ!
千隼:笑い方変えればいいってわけじゃないからな!
飛鳥:だって千隼いじめるからさぁ。仕返し。
千隼:いじめてない。
飛鳥:いじめたもん。
千隼:いじめてないって。
飛鳥:いじめたよ。……僕だって、好きで死んだわけじゃないのにさ。
千隼:それは………だが。
飛鳥:………いいよ。気持ちはわかるから。だから化けてでてきたわけだし。
千隼:お前、言い方!
飛鳥:あははははっ!
千隼:(M)古ぼけた地図をたよりに、進路はひたすら北へ。砂塵はひどいし、道路はでこぼこだ。ときおり、人だか動物だかわからない死骸を轢いてしまうこともある。それでも俺は、俺達はひたすら進んだ。戻る道など、ありはしないのだから。
飛鳥:うひゃー!
千隼:ここがセイカントンネル……
飛鳥:線路に侵入するのってめっちゃどきどきしない?
千隼:した。クセになりそうだ。
飛鳥:危ない性癖に目覚めちゃいそうだねぇ!げへへへ!
千隼:黙れ。
飛鳥:は~トンネルを抜けたら、ついに雪国かぁ……
千隼:ワクワクするな。
飛鳥:うん。約束したしね、昔。
千隼:ん?
飛鳥:昔、っていうか一年前?卒業旅行どこいこうか話してたじゃん。
千隼:ああ……
飛鳥:だからわざわざナヨロいくんでしょ?そうでしょ?
千隼:……まあな。
飛鳥:お、素直!
千隼:ここまできて意地を張る方が馬鹿だろ。
飛鳥:だねぇ。命がけできてるわけだし。
千隼:では、ここから約54kmトンネルの旅!と、いきたいとこだが。
飛鳥:だが?
千隼:今日はもう寝るぞ。ここなら雨風しのげるし。
飛鳥:ワ、ワイルドー!
千隼:男ならこれくらい耐えろ。
飛鳥:で、でもさぁ。ほら、道すがら民家あったじゃん。
千隼:あったな、バリケードされてたが。
飛鳥:それをさ、こう、バールのようなもので、くいっと。
千隼:くいっと?
飛鳥:ぐいっかもしれないけど。
千隼:擬音はどうでもいい。
飛鳥:じゃあ、くいっとして侵入すりゃいいじゃん。
千隼:……却下。
飛鳥:却下!?え、なんで!
千隼:そういうのは限界までしたくない。
飛鳥:前はふつーにしてたじゃん!
千隼:前は前。今は今。
飛鳥:ええ、なんで!
千隼:あいつらと同じになりたくないから。
飛鳥:…………
千隼:お前を殺した、あいつらと同じになりたくないからやめたんだ。
飛鳥:馬鹿じゃん。
千隼:そうだな。
飛鳥:………ちはや。
千隼:何。
飛鳥:(何かを言いかけてやめる)
千隼:何が言いたいんだ、飛鳥?
飛鳥:……ううん。卒業旅行、楽しみだね。
千隼:卒業旅行って。
飛鳥:でしょ?
千隼:……だな。
千隼:(M)向けられた笑顔に、同じく笑みで応える。……これがたとえ、俺の幻覚だったとしても、俺は俺の信じたいものを信じよう。そう決めて、目を閉じた。
間。
〇翌朝。
飛鳥:うーん、気持ちのいい朝~じゃ、ない!
千隼:仕方ないだろ。早く出なきゃ間に合わないんだから。(咳)
飛鳥:でもこれでトンネルぬけたし、もうひとふんばりだね!
千隼:そうだな。もうひとふんばり660キロ。
飛鳥:うわぁ……
千隼:(激しい咳)
飛鳥:ちょっと、千隼。大丈夫?
千隼:大丈夫。こうなるのはわかってた。薬も用意してある。
飛鳥:あのさ、もしかしたら他のコロニーが道中にあるかもしれないしさ。そしたら、
千隼:(かぶせて)いかない。
飛鳥:………
千隼:どうせどこのコロニーも一緒だ。よそ者に冷たく、虚偽と欺瞞に溢れてる。もう、いいんだ。
飛鳥:でも、あいつらじゃなければまだ……
千隼:嫌だ!……うっ、ごほごほっ
飛鳥:千隼!
千隼:お前が何と言おうと俺はいかない。
飛鳥:…………
千隼:それに。お前のお盆だってまだ終わっちゃいないだろ?最後まで付き合えよ。
飛鳥:……わかった。
千隼:それでこそ相棒。
飛鳥:……あはは。
〇再び二人でバギーに乗り込む。
飛鳥:ねーえー
千隼:なんだ。
飛鳥:このままさぁ、どこまでも遠くにいけたらいいのにな。
千隼:馬鹿じゃないのか。
飛鳥:つーめーたーい
千隼:終わりがあるからわくわくするんだろ。目的地があるからいいんだ。
飛鳥:そっか。……千隼?
千隼:ん?
飛鳥:卒業旅行、楽しくしようね。
千隼:そうだな。……(小声で)今でも十分たのしいけどな。
飛鳥:なにー?ききとれなかった!
千隼:なんでもないっ
千隼:(M)砂煙がまきあがり、肺を濁った空気が埋めつくす。毒の空気だ。人類を衰退させた死の世界だ。それでも今、俺の振動はバギーのエンジンと共鳴して、勢いよく跳ねていた。素晴らしい未来を、ガラにもなく思い描いた。
飛鳥:(M)………そんなもの、ありもしないのに。
間
〇ふたり、バギーから降りてあたりをみわたす。
千隼:げっ
飛鳥:いやーん
千隼:橋がなくなってる……
飛鳥:コンクリって意外ともろいねぇ
千隼:整備する人がいないからな……(咳)
飛鳥:……今日はもうやすむ?
千隼:馬鹿。日が落ちるまで進むぞ。さっきのガソリンスタンドまで戻れば遠回りできるはず……あっ!
飛鳥:千隼!
〇千隼、バランスを崩し勢いよく転倒する
千隼:っく、だ、だいじょう(激しくせき込む)
飛鳥:千隼、やすもう?民家がだめなら、そのへんのホテル……そうだ、さっきラブホがあっただろ!そこいこう?
千隼:却下。
飛鳥:無理したっていいことないよ?
千隼:絶対嫌だ。
飛鳥:駄々こねるなよ!
千隼:時間がないんだ!少しでも進まないと!
飛鳥:でもっ
千隼:どうせ死ぬだろう!
飛鳥:………っ!
千隼:こうして外に出た以上、どうせ死ぬ……
飛鳥:……でも、それでも。僕はすこしでも千隼に長生きしてほしいよ。
千隼:…………
飛鳥:ほら、立って。もう少し進んだら、しっかり休もう?
千隼:ああ……
飛鳥:…………
〇千隼、ひとりで立ち上がりバギーに乗り込む。
場面転換
間。
〇世界観説明つづき。Mはモノローグ。
千隼:(M)すこし、人類衰退までの道筋を整理しよう。
飛鳥:(M)大国の首脳を信じ込ませた宗教・通称「グリーンアース教」の、その主張は当初、「私達の星を守ろう」だけだった。実に単純明快。それだけなら素晴らしいことだし、好きにやってろっていう感じだけど、厄介になったのが過激派。「星を守るために人類を削減しよう」と主張する連中だ。
千隼:(M)最初は奇異の目でみられた彼らだったけど、機運がよかったのだろう。続く異常気象とそれによって引き起こされるハプニングによって、徐々にその勢力を伸ばしていった。
飛鳥:(M)そして2026年、冬。ついに彼らは一つの発明を成し遂げた。
千隼:(M)以後、「M307」そう呼ばれるそのウイルスは、彼らにとって画期的な発明だった。ウイルスに感染すると、咳、発熱、五感の麻痺や重度の幻覚等を引き起こし、80%の確率で一週間以内に死に至る。もちろん、既存の薬学で太刀打ちできるワクチンはない。
飛鳥:(M)ウイルスは、「特別な信者」によって、ある冬の日、空中にばら撒かれた。世界中に。同時多発的に。国家規模の、無作為なバイオテロだった。
千隼:(M)たくさんの人が死んだ。たくさんの人が悲しんだ。公共機関も電子器具も、ほとんど使えなくなった。……当たり前だ。仕事する人がいないのだから。
飛鳥:(M)それでもなんとか生き残った人々は、汚染されてない数少ない生存圏で、息をひそめるように生きている。外の世界が、いつか自然に浄化されることを願って。
千隼:(M)皮肉なことに、このウイルスは彼らの守りたかった「グリーン」にも作用した。……おかげさまで、植物はほとんど枯れはて、死の世界にふさわしい砂の光景が外には広がっている。
飛鳥:(M)だから、千隼の言う、「ひまわり畑」なんてどこにもあるはずがない。
千隼:(M)それでも進む。進むしかないのだ。もう俺の希望はそこにしかないのだから。
飛鳥:(M)……最初から、希望なんかないって知ってるのに?
場面転換。
間。
〇三日目の朝。
千隼:(激しい咳)
飛鳥:………
千隼:(大きく深呼吸して)よし、いくぞ。
千隼:進路は北西だな。昨日だいぶ遠回りしたが、今日の夕方までには着くはず……飛鳥?
飛鳥:ん?
千隼:さっきから無言だが。どうかしたか?
飛鳥:あ~……えっと、千隼。ほんとうに大丈夫なの?もう一泊して休んでいけば?
千隼:なにいってんだ。
飛鳥:………
千隼:これは休んだって治らないって、お前もよく知っているだろう。
飛鳥:そうだけど………
千隼:いくぞ。時間がないんだ。今日には辿り着かなくては。
飛鳥:………
千隼:飛鳥?
飛鳥:………今乗る。
千隼:早くしろ。
〇飛鳥と千隼、バギーに乗り込む。
千隼:昨日のとこからだいぶリカバリーできたな。あとは、ここの交差点を左に曲がって、道なりに30キロ行けば目的地だ。
飛鳥:ずいぶん坂が多いね。燃料大丈夫?
千隼:ギリギリってとこかもな。
飛鳥:……帰りの分は、用意してないんだね。
千隼:ん?
飛鳥:なんでもない。いこう。
千隼:…………
少し間をおいて。
飛鳥:千隼。
千隼:(咳をしながら)なんだ?
飛鳥:ナヨロについたらどうすんの?
千隼:どうするとは?
飛鳥:どうせさぁ、ひまわり畑なんてあるはずないじゃん。砂地じゃん。
千隼:…………
飛鳥:それみてさぁ、はいさよなら。って帰るの?無駄じゃない?それするくらいなら、ここらへんで諦めて食料の捜索とかする方がいーんじゃない?
千隼:……それでも行く。
飛鳥:……なんで?
千隼:お前がみたいっていったからだろ!だから行くんだ!
飛鳥:…………
千隼:そうだろ?飛鳥言ってたじゃないか。ナヨロのひまわりみて!SL(エスエル)乗って!お腹一杯たべて……!それで、それで……
飛鳥:家帰って、みんなにいっぱい自慢してやろう、って。……言ったね。
千隼:……そうだ。
飛鳥:そっか。
千隼:ああ。
飛鳥:なら、ついていくよ。最期まで。
千隼:……ああ。
間。
千隼:飛鳥、みろ!
飛鳥:……なに?
千隼:坂の向こう!ほら!!
飛鳥:なーに?砂煙ひどくてなーんも見えない。
千隼:あ、そうか。お前ゴーグルしてないもんな。ちょっとまっててろ!もうちょっと!もうちょっとだから!
間をおいて。
千隼:ほら、みろ!ひまわりがある!!
飛鳥:(息をのむ)
千隼:すごい!ここはまだ汚染されてなかったのか?すごいぞ、飛鳥!ひまわり畑だ!
飛鳥:……そう……そうだね。
〇千隼、バギーを降りて『ひまわり畑』に駆け寄る。
千隼:……本物だ!信じられない!
飛鳥:……うん。
千隼:はは……あはははは!あった!ほんとうにあったんだ!ひまわり畑はあった!飛鳥!!あははははははは!!
飛鳥:…………
千隼:ははは!あはははは(徐々に笑いをおさめて)……あすか?
飛鳥:なに?
千隼:嬉しくないのか?
飛鳥:嬉しいよ。嬉しいに決まってんじゃん。
千隼:じゃぁ何だよ、その顔。
飛鳥:ちょっと凄すぎて……信じられなくて。(鼻をすする)
千隼:ははは、なんだ。お前泣いてんのか~?ははは。
飛鳥:……うん。
千隼:あ~……きてよかったなぁ、ここまで。
飛鳥:千隼も泣いてる。
千隼:ちがう、これはその……心の汗だ。
飛鳥:ネタ、古っ
千隼:はははははっ
飛鳥:………ふたりで、来れてよかったね。ナヨロのひまわり畑。
千隼:頑張った甲斐あった。
飛鳥:………ほんとうに。
少し間をあけて。
千隼:……飛鳥。
飛鳥:んー?
千隼:……おまえ俺の幻覚じゃないよな?
飛鳥:いまそれきく?
千隼:………
飛鳥:きみ、僕が最初に言ったこと気にしてたの?
千隼:………そーいうわけじゃない。
飛鳥:「仕返し」って言ったじゃん。
千隼:……ははっ、だよな。
飛鳥:………うん。
千隼:ならさ。おまえは怒るかもしれないんだが。
飛鳥:………
千隼:俺の事、つれていってくれるか?
飛鳥:……僕、いったじゃん。
飛鳥:最期まで、ついていくよって。……だから、心配しなくていいよ。安心して。
千隼:……そっか。
飛鳥:うん。
千隼:そうかあ……
飛鳥:そうだよ。
千隼:………じゃあ本当に急がなくてよかったのか。俺、焦りすぎたな。
飛鳥:はは、そうだね。
千隼:でもふたりで卒業旅行、できてよかった。
飛鳥:……うん。
〇以下のセリフは、言っても言わなくてもどちらでもよい。
千隼:(M)希望なんてなくても、行く先が地獄でも。この夏だけはきっと、本物だと、そう俺は信じている。
おしまい。
0コメント