〇作品概要説明
主要人物2人。ト書き含めて約6000字。お盆に帰ってきた幽霊と友人のBL。ほのぼの。
〇登場人物
ひなた:享年16歳。年の離れた姉がいる。蓮の同級生だった。
蓮:38歳独身男性。地元市役所勤務。両親の残した一軒家にひとりぐらし。
注釈:作中の精霊馬の記述については「精霊馬 バイク」でご検索ください。精霊馬とは、お盆に帰ってくる霊用の乗り物です。お供え物のひとつ。
〇ご利用前に注意事項の確認をよろしくお願いいたします。https://natume552.amebaownd.com/pages/6056494/menu
作者:七枝
本文
ひなた:れん、ただいま~!
蓮:お、ひなた。今年も来たのか。
ひなた:またまたぁ。毎年ご丁寧に呼んでくれるくせにぃ。
蓮:ふん。
ひなた:そうだ、いいもんあるから来いよ。
蓮:まて。今そうめん茹でてる。
ひなた:はーやーくー
蓮:ちょ、待ってって。
ひなた:そうめんなんて火止めてほっときゃいいじゃん。
蓮:のびたらどうすんだ。
ひなた:俺、気にしないし
蓮:おまえなぁ。
ひなた:はやくはやくはやく。
蓮:あーうざい。
ひなた:そんなところもかわいいって?
蓮:ふざけろ。
ひなた:れーん。
蓮:わかったって。はいはい、何?
ひなた:ふっふー。じゃーん!
蓮:うっわ。なにこれ。でかいバイク?
ひなた:バイクっていうかオートバイ。ダッジのトマホーク!
蓮:げっ、あれだろ。ヤバいスピードでるやつ。
ひなた:そう!なんとあのハヤブサの倍のスピードで走行可能!
蓮:はやぶさ?
ひなた:新幹線のハヤブサ。つまり理論上は時速670kmくらい。
蓮:生身で乗るのか?新幹線超えを?
ひなた:みてここ。これ2輪にみえるだろ?でも実は4輪なんだ。2本ずつ独立した構造になってるから、自立も可能!この造形美にほれぼれとしちゃう!
蓮:ふーん……
ひなた:夢にまでみたダッジのトマホーク!まさか乗れる日がくるとは……!
蓮:お前これどうしたの?去年まで馬じゃなかったっけ?
ひなた:甥っ子がくれた。
蓮:へ~キュウリでトマホークを?
ひなた:作ったらしい。手先が器用な子でさぁ。今中学2年生。
蓮:え!もうそんな歳か?
ひなた:おう
蓮:やっば。俺も歳とるわけだわ……
ひなた:蓮、正直にいっていい?
蓮:あ?
ひなた:お前生え際やばいよ。
蓮:言うな。
ひなた:俺はふさふさ。
蓮:高2の身体と比べんな。
ひなた:……なんかさぁ。
蓮:なに。
ひなた:俺たちさ、並んでると親子みたいだよな。
蓮:やめろよ。
ひなた:蓮、いくつだっけ?よんじゅう……
蓮:まだ30代だっつうの。お前も同い年だろ。
ひなた:え、俺16だよ?永遠の16歳だよ?
蓮:痛々しいな。
ひなた:嘘じゃないもーん。
蓮:……あっそ。あらためて、おかえりひなた。
ひなた:うん。ただいま。
〇間。
タイトルコール:「二十三回忌の告白」
蓮:今年はどうする?あいさつ回りは済ませたか?
ひなた:ん~おとといは姉ちゃんとこ行って~昨日は親戚連中まわってきたから、もういいかな。今日の夜帰る。
蓮:そ。うち大したもんないからな。
ひなた:ビール出してくれよ。発泡酒じゃないやつ。
蓮:残念、未成年は飲酒禁止です。
ひなた:関係ないって。実質38だし。
蓮:永遠の16歳じゃなかったっけ?かわいそうに、この世の幸せの半分も知らないなんて。
ひなた:知ってるし!去年も一昨年も供えてもらったし!
蓮:しかし今年はないのであった。
ひなた:ええ~うそ。まじで?実はありました~のドッキリもなし?
蓮:うむ。
ひなた:え、え~……?そんなに嫌だった?さっきの。
蓮:いやぁ……なんだ。最近尿酸値がさぁ……
ひなた:は!?おっさんみたいなこと言うじゃん!
蓮:おっさんいうな。
ひなた:冗談じゃないんだ?
蓮:こんなこと冗談で言えるか。自慢じゃないが本気でまずいからな、俺の健康診断書。
ひなた:ほんとだよ。自慢すんなよ……尿酸値高いとどうなるんだっけ?注射打たなきゃいけないんだっけ?
蓮:注射?
ひなた:イン……インディアンみたいな名前の。
蓮:インスリン?
ひなた:そう、それ!
蓮:それは高血糖の場合。俺の場合は尿酸値と血圧高めだから痛風とか高血圧とかのリスクが高い。
ひなた:へ~高血圧ってあれだ。いきなり血管切れるやつだ。
蓮:……だいたいそんな感じ。
ひなた:あ、今説明めんどくさくなって投げただろ!
蓮:うっさい。あれしろ。あれだ。ぐぐれ。
ひなた:スマホないもん!
蓮:供えてもらえば?
ひなた:本気で言ってる?
蓮:ないか。
ひなた:ないよ。姉ちゃん、俺の声届かないし。
蓮:ん。
ひなた:あ~いいな~俺もカラダトークしたいなぁ!
蓮:カラダトークって。
ひなた:関節が痛いとかグルコサミンが~とかって病院でグチりあうんだろ?
蓮:そういうカラダトークはあと40年後だ、ばか。
ひなた:いいな~体があるってどういう感覚かもう覚えてない。
蓮:さっきビール飲みたいとか言ってたのに?
ひなた:あれは、気持ち。
蓮:ふぅん?
ひなた:なんて説明すればいいかな~供えてくれた人の「楽しんでくれたらいいな」とか「喜んでくれたらいいな」って思ってくれた気持ちを味わってるっていうか……蓮のお供え物は、「ビールはこんな味だよ」とか「すこしでも一緒にたのしめたらいいな」ってびんびん伝わってくるから好きなんだよね。
蓮:あ、っそ。
ひなた:照れてる?
蓮:照れてない。
ひなた:嘘、照れてるだろ。
蓮:照れてないって。……そうめんと麦茶出すからな。
ひなた:やっぱ照れてるぅ
〇間
〇蓮、そうめんをすすっている。ひなたはそれを眺めている。
蓮:(そうめんをすすって)そうめん、のびてる……
ひなた:ごめーん。
蓮:謝罪が軽い。
ひなた:食べ終わったら、夏祭りいこ。
蓮:なつまつりぃ?
ひなた:おう
蓮:そんなとこ行って何が愉しいワケ?
ひなた:んー……
蓮:人ごみヤバいぞ?屋台とかみても何も食えないだろ。
ひなた:ううん……
蓮:いつもの気まぐれなら、やめとけ。
ひなた:気まぐれ、ではないんだよなぁ……
蓮:はっきり言えよ。
ひなた:実はさ、けっこう前から夏祭り行きたいなあって思ってて。
蓮:男ふたりで?
ひなた:うん。
蓮:前って……いつから?
ひなた:……23年くらい前?
蓮:はあ?
ひなた:へへ。
蓮:それって生前からってこと?
ひなた:そうなるね
蓮:いかない。
ひなた:え。
蓮:絶対いかない。
ひなた:え、ええ~なんで!なんでそんな意地悪するの!
蓮:…………
ひなた:いこうよ~ひなたくん一生のおねがい!
蓮:やだね。
ひなた:なんでぇ。
蓮:いやなもんは嫌だ。
ひなた:頼むよ~蓮が来てくれないと俺、ずっと行けないままなんだよ?ひどいと思わない?
蓮:……生前からってことは「未練」ってことだろ。
ひなた:ん?
蓮:未練を消したらさ、お前みたいな存在はその……
ひなた:あー、そういうこと?俺が来年から来なくなると思って嫌がったの?
蓮:……べつに。
ひなた:「別に」?「はっきり言えよ」
蓮:うっさいなぁ。にやにやすんな!
ひなた:れーん。
蓮:つつくな!お前はそうやって、すぐ調子にのる!
ひなた:へへ。……俺、消えないよ。蓮が思い出してくれる限り、消えたりしない。
蓮:……そ。
ひなた:蓮がこっちに来るときは、迎えに来てあげるから。
蓮:それまで盆の里帰りで我慢しろって?
ひなた:うーん……それは姉ちゃん次第かなぁ。
蓮:じゃあ今年も春香さんにお中元送っておくわ。
ひなた:人妻狙い?
蓮:違う。何かあった時にいつでも力になりますよってアピール。
ひなた:きっしょ。
蓮:きしょいか。引かれてる?
ひなた:冗談冗談。ねーちゃん喜ぶと思うよ。食い意地はってるし。
蓮:食べ盛りの甥っ子もいるしな。
ひなた:なに送るの?肉?
蓮:去年はハムだったからなぁ……同じものが安牌だろうな。
ひなた:つまんね。
蓮:大人は同じものの方が安心するんだよ。
ひなた:そういうもん?
蓮:そういうもん。
ひなた:ふーん……大人になっちまったんだなぁ、蓮。
蓮:伊達にハゲてるだけじゃねぇんだよ。
ひなた: なんかさびしー
蓮:なにが。今となりにいるだろ。
ひなた:……それはそうか。
蓮:ん。
ひなた:それで、夏祭り一緒にいってくれるんだよな?
蓮:……まあ。
ひなた:な?
蓮:……まぁ、うん。いいよ。
ひなた:ほんと?
蓮:ああ。
ひなた:ほんとのほんと?
蓮:いいって言ってるだろ。
ひなた:じゃあゆかたきて!
蓮:……はあ?
ひなた:楽しみだな~蓮の浴衣姿。いつも色気のない恰好ばかりだからさぁ。
蓮:ちょっと、お前本気でいってんのか?38のおじさんにソロ浴衣しろって?
ひなた:ひとりじゃないよ。俺がいるよ。
蓮:おじさんふたりでもキッツいんだわ
ひなた:誰も気にしないって~
蓮:ここがどこだかわかってる?地元だぞ?ちっちゃな町だぞ?明日には職場の一大トピックスになってる!
ひなた:あー…ほら、人ごみでわかんないって。
蓮:やだ。ぜ~ったいやだ!
ひなた:ちょっとでいいから。少し歩いたら満足するから。
蓮:いやだって。なんでそこまで浴衣にこだわんだよ。
ひなた:夢なんだよ~浴衣デートしようよ~
蓮:デートってな、お前……だいたい浴衣なんて持ってない。
ひなた:嘘だ!前着てた!
蓮:いつの話だよ。
ひなた:……高1のとき?
蓮:そんな昔の残ってるわけないだろ。
ひなた:そっか……
蓮:……甚平ぐらいなら探せばあるかもしれないけど。
ひなた:え!?
蓮:そこまでみたいか?
ひなた:うん。甚平着た蓮と一緒に夏祭りいって、花火みたい。
蓮:恥ずかしいほどベタな夢だな。
ひなた:お願いお願いお願い!
蓮:うーん……じゃあ、
〇一拍おいて。
〇場面転換。蓮宅裏の山にて。みはらしのいい高台。
ひなた:うわー!高い!裏山にこんなスポットあったんだな~
蓮:(荒い息)
ひなた:はやく来いよ!
蓮:ちょっと……まって……
ひなた:情けないなぁ。岡センに叱られるぞ
蓮:学生時代でも褒められたことないって。
ひなた:やーい、万年運動音痴~
蓮:くそっ……ふぅ。やっと着いた。
ひなた:おつかれ。
蓮:ん。久しぶり来たけど、やっぱここ穴場だわ。風にのってお囃子の音も聞こえる。
ひなた:だな。花火何時からだっけ?
蓮:そろそろかな。思ったより登るのに時間かかったから。
ひなた:蓮、少しは鍛えろよ。足おそすぎ。
蓮:ユーレイと一緒にすんな。
ひなた:わ、幽霊差別だ。
蓮:……そんなのあんの?
ひなた:あるわけないじゃん。へんなとこ真面目だね。
蓮:…………
ひなた:すねんなよ。せっかくのデートなんだから。
蓮:男ふたりでデートもクソもないだろ
ひなた:へへ。やっぱ和服っていいな~隙間がエロい。
蓮:何いってんだ。
ひなた:耳あかくなってるよ。
蓮:はぁ?
ひなた:身体あればよかったのになぁ
蓮:まだ言ってる。
ひなた:……蓮はさぁ、
蓮:なに?
ひなた:結婚しないの?
蓮:しない。
ひなた:即答?
蓮:するつもりないから。
ひなた:なんで?
蓮:イマドキそんなおかしなことでもないだろ
ひなた:もったいねぇなぁ。蓮、モテんのに。
蓮:モテないよ。
ひなた:いやいや。いいよ、俺しってるし。
蓮:なにをだよ。モテねぇって。
ひなた:結婚じゃなくてもいい。遊びでもいいからさ。いい子いないの?
蓮:しつこい。
ひなた:………
蓮:ひとりでいい。ひとりが楽なんだ。
ひなた:でもさ、
蓮:(さえぎって)なにが言いたいんだ。
ひなた:………
蓮:ごちゃごちゃ理由つけんな。言いたいこと言え。
ひなた:あのさ。
ひなた:俺、蓮のことが、
SE:花火の音。
〇以下、二人同時に。
蓮:あ。
ひなた:あ。
〇十分な間をおいて。
ひなた:あー……えっと、花火きれいだね。
蓮:……っく。くくくっ。
ひなた:蓮?
蓮:花火で告白かき消されるってベタもベタだな。
ひなた:うん。あ、いや、そうじゃなくて……
蓮:違うのか?
ひなた:……えっと、
蓮:照れてる?
ひなた:からかうなよ
蓮:さっきの仕返し。
ひなた:執念深いなぁ。
蓮:そうだよ。俺ほどお前を愛してるやつはいないからな
ひなた:……!
蓮:はははは!幽霊も真っ赤になるのか!
ひなた:ったく……かなわないなぁ。
〇間。
蓮:なぁ、ひなた。
ひなた:んー?
蓮:もういいんじゃないか?
ひなた:え?
蓮:22年だ。22年、俺はひとりで待ってたんだ。そろそろ、連れていってくれてもいいじゃないか?
ひなた:ダメだ!
蓮:………
ひなた:ダメだ、蓮。それはダメ。蓮は生きなきゃ。こっちで幸せにならなきゃだめ。
蓮:ひなたしか好きになれない。
ひなた:それでも……幸せになることはできるだろ。
蓮:お前の言う幸せってなんだ?結婚すること?家族をつくること?お前以外の誰かと?そんなのクソくらえだ。
ひなた:試してみなきゃわかんないだろ。
蓮:心を殺してまでしたくない。
ひなた:……ここは寒いよ。暗くて陰気だし、楽しいことなんてひとつもない。
蓮:お前がいるならいい。
ひなた:俺は死んでるんだ。
蓮:わかってる。
ひなた:わかってない!俺は蓮を抱きしめることもキスもできない……!
蓮:ひなた……
ひなた:蓮のばか。あほ。頑固者。蓮がそんなんだから、いつまでたっても諦めきれない。もういい、呼んじゃだめだって言わなきゃいけないのに。俺の事忘れろ、って言わなきゃ駄目なのに……!
蓮:俺はひなたを忘れない。
ひなた:だめだ。
蓮:お前がなんて言おうと、来年もここに呼ぶ。
ひなた:だめだってば。
蓮:待ってるよ。つれていってくれるまで、ずっとずっと待ってるよ。
ひなた:この頑固者……
〇どこからか、モーター音が聞こえる。
〇一拍おいて。
ひなた:そろそろ、帰るわ。
蓮:……帰りもバイク?
ひなた:ん。スズキのチョイノリ。
蓮:牛のままの方がよかった。
ひなた:天下のスズキ様だぞ?
蓮:牛だったら、二人乗りできるだろ。
ひなた:……蓮の冗談、つまんね。
蓮:冗談じゃないからな。
ひなた:いじわる。
蓮:どっちが。
ひなた:じゃあな、蓮。からだには気を付けて。
蓮:死んだら迎えに来てくれるんだっけ?
ひなた:馬鹿。……また、来るから。それまで死ぬなよ。
蓮:……ああ。
〇間。
蓮:いってらっしゃい、ひなた。
〇おわり。
0コメント