〇作品概要説明
主要人物4人。ト書き含めて約9000字。場面転換なしワンシチュエーション。
幼馴染マフィアと裏切りとオズの魔法使い。悪童共のねぐらは闇の中。
〇登場人物
ドロシー:おうちがない。私。
カカシ:あたまがない。オレ。
ブリキ:こころがない。ヤク中。僕。
ライオン:ゆうきがない。アル中。俺。
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作者:七枝
本文
〇廃屋。椅子に縛られたドロシーとそれを囲む3人。ドロシーは酷く殴られた跡がある。
ライオン:(くしゃみ)
カカシ:どうしたの、ライオン?風邪?
ブリキ:夏風邪は馬鹿がひく
ライオン:うっせ。ココなんかムズムズすんだよ
ブリキ:使われてない倉庫だからかな。
カカシ:やだなぁ、ダニ湧いてそう。
ライオン:はっ、昔はダニどころかウジまみれのくいもんに噛みついてたくせに。
カカシ:昔は昔!今は今!
ブリキ:意地汚いのは変わりないけどね。
カカシ:金払ってんだから、いいでしょ。
ライオン:金、ね……つまんねぇこと言いやがって。
〇ライオン、懐からスキットルをとりだしてラッパのみをする。
カカシ:あー!ライオンまた呑んでる!仕事中だよ!
ライオン:薬だよ。勇気がでるおクスリってやつ。
ブリキ:アル中は放っときなよ。
ライオン:ヤク中がなんかいってら。
ブリキ:ははは。キメとかないと頭回らなくてね。おっと、なんか踏んだ。
カカシ:あーあ。オレたち、どうしてこうなっちゃったのかなぁ……
ブリキ:なあに?昔話でもするつもり?
カカシ:それもいいかもね。話してよ、ドロシー。どうしてオレ達こうなっちまったの?
ドロシー:…………
ブリキ:アホ。今のこいつに話ふっても応えるわけないでしょ。
カカシ:どうして?お話をするのはいつもドロシーの役割だったじゃん。
ライオン:むかしむかしあるところにってか?
カカシ:そう。オレ、好きだったな。脳味噌を詰め忘れたカカシの話。
ライオン:勇気のないライオン。
ブリキ:ハートのないブリキのきこり。
カカシ:なつかしいねぇ。ドロシーがオレらに名前をくれたんだ。
ブリキ:大通りのレンガの道をたどれば、いつかエメラルドシティにたどり着ける。そこはオズの魔法使いが治めるすばらしい都。西の魔女の治める国とは違い、飢えることも寒い想いをすることもない……
ライオン:そもそも大通りを歩ける御身分でもなかったしなぁ、俺ら!
ブリキ:そんな僕たちが今やこんなご立派なスーツ着て、大通りどころか町の真ん中を闊歩してる!素晴らしい未来じゃないか、なぁ?オズ様ばんざい!エメラルドシティばんざい!
カカシ:ぜんぶドロシーが言ったとおりだ。ドロシーがここまでオレ達を連れてきてくれた。……なのに、どうしてオレ達を裏切ったの?
ブリキ:答えてあげなよ、ドロシー。手足は縛られてても、口はあいているんだ。おしゃべりはお得意だろ?
ドロシー:(唾を吐きかける)
ライオン:……このドブゥ!
〇ライオン、ドロシーをなぐる。ドロシー、うめき声をあげる。
ライオン:はは、あんまり俺をばかにすんじゃねぇぞ。
ドロシー:つまんないやつ。一発でおわり?
ライオン:ああ?
ブリキ:やめなよ、ライオン。お前すぐ加減を忘れるんだから。
ライオン:かばうのか?
ブリキ:そうじゃなくて、まだ情報吐かせてないでしょってこと。オズ様に叱られてもいいの?
ライオン:……ッチ。
ドロシー:あいかわらず勇気がないのね。
カカシ:慎みなよ、ドロシー。ころされちゃうよ。
ドロシー:今でも後でもどちらにしろ殺されるじゃない。そうでしょう?ブリキ
ブリキ:さて、どうだろう?ドロシーが快く「おしゃべり」してくれたら、僕らも昔なじみの命乞いをしてあげるかも。
カカシ:ほら!ブリキもこう言ってる。
ドロシー:馬鹿。見なさいよ、あいつの薄ら笑い。ハートのないブリキとは我ながら上手く名付けたものよね。
ブリキ:ひどいなぁ。
ドロシー:どっちが。
ブリキ:先に裏切ったのはそっちじゃないか。
ドロシー:アンタたちこのままでいいと思ってるの?オズは最低のペテン師よ。このままじゃいずれあんたも殺される。それか泥船に沈むだけ。
ライオン:オズ様を悪くいうな!
〇ライオン、ドロシーをなぐる。
ドロシー:(うめき声)
カカシ:やめなよ!
ライオン:オズ様は俺に勇気を下さったんだ!力を、武器を与えて下さった!恐ろしい魔女から救いだしてくれた!この恩知らずめ!恥をしれ!腹かっさばいてオズ様にわびろ!
ブリキ:どーどー落ち着け、落ち着けよ、ライオン。
ライオン:どうしてだドロシー!どうしてオズ様を裏切った!どうして俺たちに何も相談しなかった!どうして!
ドロシー:はっ、「どうして?」本当にわかんないの?
カカシ:わかんないよ、ドロシー。話してくれなきゃわかんない。オレたちなんでも話し合って決めてきたじゃないか。教えてよ。君になにがあったの?どうして組織の金を盗んだりしたの。
ドロシー:必要だったからよ。
カカシ:なんで。
ドロシー:逃げるために。
ブリキ:どこから?まさか僕らからとか言わないよね。
ドロシー:そのまさか以外何があるっていうの?もうこりごりなの、人をだますのも陥れるのも。私は私の家に帰りたい。ただ、それだけ。
カカシ:エメラルドシティがオレ達の家じゃんか!
ドロシー:………なにも、気づいてないのね。
ブリキ:僕たちなぞなぞやってる暇はないんだけど。
ドロシー:あらそう?アンタはこういう腹の探り合いが好きなんだと思ってた。
ブリキ:どういうイメージ?
ドロシー:なんて名前だったっけ?キャサリン……ジル……ああ、トイだったかしら?
ブリキ:……誰の話かな。
ドロシー:アンタの恋人の話。腹の探り合いが好きな恋人。いるでしょ?
ブリキ:知らないね。
ライオン:おい、何の話だよ。
ブリキ:ライオンには関係ないよ。
ドロシー:へぇ、そうなの。可哀そうなトト。あんなに愛していたのに弔ってもらえないのね。
ライオン:トト?どうしてお前の口からその名前が!
ドロシー:ふふ。
ライオン:答えろよ、ドロシー!お前は何を知っている!
ドロシー:この件に関してはブリキの方が詳しいんじゃないの。
ブリキ:僕は何も知らないよ。
ドロシー:うそつき。
カカシ:ふたりとも何の話してるの?トトって、ライオンの恋人の名前だよね……?
ドロシー:そうよ。ライオンの可愛い可愛いパピーちゃん。三番街の花売りトト。本名はトイ・テリア、26歳。ああ、ライオンには17歳のトトって名乗っていたんだっけ?
ライオン:26!?嘘だろ!
ブリキ:……よく調べてるね。
ドロシー:こんなことで?冗談でしょ。
ライオン:ブリキ……お前、知ってたのか?
ブリキ:だから僕は何も知らないって。僕が追ってたのはトイの方。小賢しいネズミが出たって報告があったからね。
ドロシー:あんたネズミと寝たの?
ブリキ:……それが仕事なら。
ライオン:嘘だ。嘘だっていってくれ。
カカシ:ライオン……
ライオン:愛していたのに!あんなにかわいがってやったのに、なんてやつだ!ブリキもブリキだ。俺のもんに手をだしやがって!なぜ言わなかった?
ブリキ:言ったらどうしてた?
ライオン:そりゃ、優しく聞いてやったさ。「なぜ俺を売った?」って。懇切丁寧一晩中皮という皮を裂いて聞きだしてやった!
ブリキ:だろ。お前じゃ勢い余って殺しちまうのが目にみえてる。だから僕に回ってきたんだ。
ドロシー:いつもそうよね。大事な仕事はブリキが担当。
ブリキ:何が言いたいの?
ドロシー:べつに?ずいぶんオズから信頼されてるだなって思っただけ。
ライオン:俺が信頼に値しないって言いたいのかよ!
ドロシー:あら、そう聞こえた?
ライオン:このっ!
カカシ:まあまあ。それぞれ得意分野が違うってことだよ。トトのことだって、ライオンが傷つくと思ってブリキは言い出せなかったんだよ。そうでしょ?
ブリキ:まあ、(そんなところかな)
ドロシー:(ブリキの言葉を遮って)そうかしら?オズに口止めされてたんじゃないの?考えてみないよ、組織のスパイを飼ってた幹部なんて信用ならないもの。ライオンを探れって、オズに言われてたんじゃないかしら。
カカシ:ドロシー!
ライオン:……違うよな?
ブリキ:………
ライオン:お前は俺を疑ったりしないよな、ブリキ?
ブリキ:もちろんだよ、当たり前じゃないか。
ドロシー:浮気男みたいな台詞。次は「愛してるよ」とでも言うの?
ライオン:黙れ!
ドロシー:やだ、怖い。
ブリキ:……愛してるよとは言わないけど。ライオンは家族だ。家族を疑ったりしないよ。
ライオン:なら、なんで言わなかったんだよ。
ブリキ:それは……だからさ、
ライオン:言い訳すんなよ!お前も俺を裏切るのか?俺たち、仲間じゃなかったのかよ!
カカシ:ライオン!
ライオン:…………
カカシ:ヒートアップしすぎ。頭冷やしてきなよ。これじゃ、尋問なんてできない。
ライオン:こいつに聞きてえことがあんだよ。
カカシ:わかってる。ちゃんとオレが見張っておくから。
ライオン:…………
カカシ:それともオレのことも信用できない?
ライオン:………もう、何を信じたらいいかわかんねぇよ……
カカシ:うん、わかるよ。オレもそうだから。でもだからこそ今は冷静にならなきゃ。
ライオン:……ああ。
カカシ:それにほら、この廃屋の出口はひとつしかない。もしドロシーが逃げてもすぐライオンは気づけるよ。ね?
ライオン:そうだよな。
カカシ:うん。
ライオン:……ちょっと一杯ひっかけてくるわ。
カカシ:わかった、ここはまかせて。
〇ライオン、外に出ていく。
ブリキ:ふー……泣き虫子猫ちゃんのお世話おつかれさま。
カカシ:ブリキ。
ブリキ:わかってるって。口が滑りすぎた。助かったよ。
カカシ:オレはさ、バカだからアンタが何してんのかわかんないし、理解できるとも思ってないよ。でも、オレたちのブレーンはアンタしかいないんだからさ。しっかりしてよ。
ブリキ:だよな。もう僕しかいない。
ブリキ:頼れる僕らのリーダーは裏切り者だったんだから。ねぇ、ドロシー?
ドロシー:………さて、どうでしょうね?アンタたちの本当の味方って誰だった?
ブリキ:今度は僕を揺さぶろうとしてる?それともカカシ?どちらにしろ、おススメしないな。君のいうとおり僕は「ハートのない」ブリキだ。裏切り者の始末には慣れてんだよ。
ドロシー:カカシ、アンタはどう?少しは自分の頭で考えてみなさいよ。そうやって棒立ちしてカラスにつつかれるのを待ってるの?
カカシ:そんなこと言われたって困るよ。
ブリキ:カカシを馬鹿のまま育てたのは君だろ。過去の自分を恨むんだね。
ドロシー:(舌打ち)
ブリキ:さて、じゃあ話してもらおうか。それとも軽く爪から剥いでく?
ドロシー:どっちも嫌。
ブリキ:ライオン呼び戻して、ド頭ぶちぬいてもらった方がいい?
ドロシー:だいたい何を話せって言うのよ。盗んだ金はとっくにみつけたんでしょ
ブリキ:一部はね。全部じゃない。もちろん、足りない分は君自身で補填してもらうけど……僕が聞きたいのはそこじゃない。
ドロシー:何。
ブリキ―:協力者、いるだろ?誰だよ。
ドロシー:………そんなものいないわ
ブリキ:あの日、君がオズ様の金を盗んでエメラルドシティを出ていった日。僕らは西の魔女と抗争中だった。カカシとライオンは背中合わせに戦っていて、僕は兵隊たちと一緒だった。誰の目もないところで、君はいつの間にか魔女を倒して、いつの間にか戦利品を抱えて消えた。……君ひとりであの西の魔女を倒せたとは思えない。
カカシ:魔女の死体はドロドロに溶けてて、顔も体格も判別不能だった。あの時は「たおした」っていうドロシーの言葉を信じたけど……
ブリキ:答えろよ、協力者は魔女か?
ドロシー:何言ってんの?脳味噌つめ忘れちゃった?
ブリキ:なら、どんなコロしであんな死体ができるっていうんだ?
ドロシー:さあね。魔法ってやつじゃない?
ブリキ:おいおい、寝言は寝てから言えよ
ドロシー:あんた達のご主人様は「オズの魔法使い」でしょ。
ブリキ:あいにく僕が信じてるのは、金と権力の魔力ってやつでね。
カカシ:ドロシー、君は本当に魔女と組んでるの?オレらを……町を苦しめた魔女とグルだったの?
ドロシー:………
カカシ:いつから?いつからそうだったの?ガキの頃から?違うよね?今回うっかりお宝に目がくらんだだけでしょう?君が魔女のスパイだなんてことは……ないよね?
ドロシー:……っぷ、はーはっははっは!私が?魔女のスパイ?ははははは!笑わせないでよ。そんなことあるわけないでしょ。
カカシ:だって、ブリキが……!
ドロシー:それよ。ブリキブリキブリキ。人の話を丸呑みする馬鹿だから、そんなホラ話に呑み込まれるのよ。本当の裏切り者が誰かなんてなーんもわかってない。
カカシ:なに?
ドロシー:本当の裏切り者はブリキだってコト。そうよね?西の魔女の一番弟子さん。
ブリキ:……つまらない悪あがきだね。
ドロシー:証拠だってちゃんとあるのよ。それを知ってるからまだ私を生かしてるのでしょう?
カカシ:……え。
ブリキ:でたらめだよ、惑わされるな。
カカシ:う、うん。
ドロシー:魔女はずる賢いヤツだからね、一番弟子といえど、用心は怠らなかった。もし弟子が自分を見捨てるようなことがあれば、ひどい呪いが降りかかるように契約を交わしていた。
ブリキ:馬鹿げた話だ。呪いなんて。
ドロシー:呪いなんてない。そう言いたいんでしょう?でも胸が痛くなった。頭痛もひどくて、集中できない。しまいには幻覚をみる始末で、鎮静剤に頼らなきゃろくに動けない。
ブリキ:………
カカシ:ブ、ブリキ?なんか言ってよ。
ブリキ:抗争中、僕はずっと兵隊たちに囲まれていた。あそこから魔女を救い出すなんて無理だよ。
ドロシー:ふうん。それで?
ブリキ:僕が魔女と繋がってるなら、もっとうまくやってるはずだ。オズ様から采配をまかされてるのは僕なんだから。
ドロシー:だから、でしょ。オズは魔女とグルだったんだから。
カカシ:……うそ。
ドロシー:本当。あの抗争だって裏取引のつじつま合わせ。お互いの組織で間引きしたかった人材を戦わせていただけ。私が途中で魔女を倒しちゃったからご破算になったみたいだけどね。
カカシ:なんで?どうしてオズ様が魔女なんかと……
ドロシー:どこにでもあるよくある話よ。魔女は金が欲しかった。オズは兵隊がほしかった。だから2人の悪党は共謀して、欲しいものを交換した。魔女はスラムの子どもたちを売り、オズは子どもを兵隊に仕立て上げた。馬鹿には恩を売り、反抗的な子には依存性の高いヤクをあげてね。
カカシ:……もしかして、勇気の出る薬って
ドロシー:当然、ただの酒ではないわよ。魔女様ご謹製の「トクベツなお酒」
ドロシー:ライオンが店でお酒買ってるとこみたことある?ないでしょ?
カカシ:そんな、じゃあ……ライオン!こっちに(きて)
ブリキ:おっと、大きな声を出さないでくれるかな
〇ブリキ、拳銃をカカシに突きつける。
カカシ:(息をのむ)
ブリキ:撃たれたくなかったら、ドアから離れて。膝をついて両手を頭の後ろに回すんだ。
カカシ:やだ……嘘だよね、ブリキ。嘘って言ってよ……
ブリキ:ごめんね、カカシ。
ドロシー:ひどいヤツ。
ブリキ:どっちが。
ドロシー:はぁ?
ブリキ:すべてを知った時、僕らを見捨てて逃げただろ。
ドロシー:ヤク中とアル中と馬鹿つれてどこに行けっていうのよ
ブリキ:ひとりなら逃げられるって?
ドロシー:逃げるんじゃない、帰るのよ。
ブリキ:みなしごの僕たちに帰る家なんてないじゃないか!
ドロシー:あるわ、私には家がある。カンザスのおうちに帰るの!
ブリキ:カンザス?どこだよそれ。子どもの頃の寝物語をまだ続ける気かい?人間が竜巻に巻き上げられて無事なんてことあるものか。
ドロシー:……あんたに何をいっても無駄ね。
ブリキ:とにかく、そこまで魔女のことに詳しいってことは呪いについても何か知っているんだろう?おとなしく……っつ!
〇ブリキ、痛みに顔を歪めて言葉を詰まらせる。
ドロシー:ふふ、呪いは絶好調みたいね。ヤクの補充は十分か?なーんて。
ブリキ:口のへらない奴だな……ッ!
ドロシー:「痛み止め」打たなくていいの?
ブリキ:うるさいっ!早く呪いの情報を吐くんだっ!吐かないとカカシを撃つぞ!
ドロシー:……その脅しが私に通用すると思ってる?
ブリキ:思ってるよ。カカシが君を大事にするように、君もカカシを大事にしてきたはずだ。
〇間。
ドロシー:………腐っても仲間、か。
ブリキ:僕の気は長くないぞ。なんせ「ハートがない」もんでね。
ドロシー:(溜息)
カカシ:ドロシー……
ドロシー:カカシ、これが最後の「おはなし」よ。信じた仲間に裏切られ、利用され、打ち捨てられる物語。ちゃんと聞いておきなさいね。
カカシ:まだ結末はわからないじゃないか……
ドロシー:馬鹿な子。
ブリキ:はやくしろ
ドロシー:……あんたの言うように、呪いなんて存在しないわ。魔女が使ってたのは毒。定期的に摂取しないと身体に害を成す……ようはヤクの一種ね。
ブリキ:僕は「クスリ」を飲んでない。
ドロシー:経口摂取がすべてじゃない。アンタ、魔女と会う時にいつもおかしな匂いを嗅がなかった?甘ったるくてスパイシーな感じの。会わなくても手紙にもモノにもその匂いがしみついてたんじゃない?
ブリキ:……アレか……
ドロシー:そう。少量ならさして問題にならないけど、継続的に摂取すると危険な香。それが魔女の子どもたちを縛る呪いの正体よ。
ブリキ:香のレシピは?
ドロシー:もちろん盗んできたわ。尻ポケットにメモが入ってる。
ブリキ:……いけ、カカシ。
ドロシー:自分で探らなくていいの?
ブリキ:君から目をそらしたくないんでね。
ドロシー:ふん。臆病ですこと。
ブリキ:それはライオンの専売特許だ。
〇カカシ、ドロシーに近づく。
カカシ:ドロシー、身体触るね
ブリキ:余計なことするなよ
カカシ:えっと、尻ポケットの中……どっち?
ドロシー:右側
カカシ:………あれ?
ドロシー:やっぱり左側だったわ。
〇カカシ、右側に入っていた折り畳みナイフをドロシーに渡す
カカシ:あ、あったよ
ブリキ:ゆっくりこっちにこい
ドロシー:(ささやき声)カカシ、合図をしたら叫んで
カカシ:わかった
ブリキ:レシピを渡したら膝をついて両手をあげろ。……そうだ、それでいい。
ブリキ:……じゃあドロシー、最後に言い残したことはあるかい?
ドロシー:そうね。一つ言うのなら、その台詞はまだ早いわ。
ブリキ:なに?
ドロシー:えいやっ
ブリキ:うわっ
〇ドロシー、立ち上がってブリキに椅子を投げつける
ドロシー:カカシ!
カカシ:ライオン、こっちにきて!はやく!
ライオン:……あ?いったいなにが……おい、ドロシーの縄が解けてるぞ!
カカシ:いいから、その縄でブリキを縛って!ブリキが裏切り者だ!
ライオン:ああ?何言ってんだ?
カカシ:いいから早く!オレの腕力じゃブリキを抑えきれないっ
ブリキ:放せ!放せよ!
ライオン:何がどうなって……
ドロシー:いいえ、縛る必要はないわ
カカシ:え!
ブリキ:ふんっ
〇ブリキ、カカシの制止をふりきる
カカシ:痛っ
ブリキ:くそ、ライオンが来やがったか!こうなったら……!
ライオン:お前、誰に銃かまえてんだ!
ブリキ:うるせえっ
ドロシー:やめたほうがいいわよ、ブリキ。死にたくないでしょ?
ブリキ:ああん?
ドロシー:この場所は、私が灯油をまいてるの。アンタがその引き金を引いたら、全員まとめてドカンよ。
ブリキ:は……?
ライオン:何いってんだ、そんな匂いしなかったぞ!
ドロシー:当たり前でしょ、その為に魔女の香を焚いてるんだから。
カカシ:魔女の香ってさっきの……!
ドロシー:違うわよ。それとは違う香。西の魔女はね、魔法も不思議な道具も使えなかったけど、薬物を扱う知識があったの。例えば一時的に鼻を麻痺させるお香、とかね。……ブリキだったら知ってるんじゃない?
ライオン:なんでブリキが……
ブリキ:……ここからどう逃げるつもりだ。出口は僕ら側にある。この状況でライオンを説得するつもりか?
ドロシー:まさか。その頑固者にいちから説明する時間なんてないわ。それはカカシの仕事。
カカシ:へ、オレ?
ドロシー:これからは、アンタが2人の面倒みるのよ。
カカシ:……行っちゃうの、ドロシー?
ドロシー:ええ。
カカシ:やだ!オレやだよ!ずっと皆と一緒にいよう?いままでどおりでも生きていけるじゃないか!
ドロシー:無理よ。魔女を殺して、オズも裏切った。それは事実だもの。ライオン、
ライオン:なんだよ。
ドロシー:あんたの治療法もそのメモに書いてあるから。詳しい事はブリキに聞いて。
ライオン:あ?今話せや。
ドロシー:やだ。
ライオン:んだと、てめぇっ
ドロシー:これ、なーんだ。
〇ドロシー、マッチを取り出す。
ブリキ:マッチ……!
ライオン:やめろ、バカ!
ドロシー:さよなら、みんな。クソったれおとぎの国で仲良くね
SE:炎の音。家が燃え始める。
ライオン:クソッ、マジで火ぃつけやがった!
カカシ:やだ、まってドロシー……!
ライオン:走れカカシ!巻き込まれる前にさっさとズラかるぞ!
カカシ:でもドロシーが!
ライオン:あの性悪が考えなしに火つける筈がないだろ!
カカシ:……!(カカシ走り出す)
ブリキ:(激しい息遣い)ここまでくればなんとか……
ライオン:なんなんだよ、アイツ……おい、カカシ。アジトに戻ったらちゃんと説明しろよ
カカシ:うん……あのね、
ブリキ:おい、空をみろ!
カカシ:え?……あ!
ライオン:気球?あれはオズ様の気球じゃねぇか!まさか……
ブリキ:ドロシーのやつ、屋上にくすねた気球を隠していやがったんだ。今日あそこで尋問されることも、僕の秘密も最初から全部お見通しってことか……道理ですんなり捕まったわけだ。はは、これはまいった……
ライオン:ほんとに腹立つ奴だな、アイツはよぅ
カカシ:そうだね……でもだからこそ、アレはドロシーだ。僕たちのドロシーだよ。
ブリキ:……ねぇ、
カカシ:なあに?
ブリキ:ドロシーの家ってどこなんだろうね。アイツはどこに帰ったんだろう?
ライオン:知るかよ。アイツは俺たちを置いてったんだ。
カカシ:……また追いかけてみる?
ライオン:ガキの頃みてえにか?オズ様の命令ならともかく、俺はごめんだね
ブリキ:僕もいいや。他にやることがあるし。
カカシ:そっか。
ブリキ:カカシは追いかけるの?
カカシ:んー……どうしようかな、考えてみる。
ブリキ:へぇ?
カカシ:それに考えてる間に、ドロシーが戻ってくるかもしれないしね。
ライオン:ずいぶん甘ぇな。
カカシ:そうかな?だってオレ達だって悪党だろ。悪党の帰る場所なんて仲間の元しかないじゃないか。
ブリキ:僕もまだ仲間かい?
カカシ:そうだよ。オレ達は仲間で、家族だ。裏切ろうが置いていこうが、家族は家族だよ。
ライオン:ふん。俺はそう簡単にゆるさねぇけどな。
ブリキ:案外あの気球が故障して、すぐ落ちてきたりして。
カカシ:ははは、その時は笑ってあげよう。おかえりドロシーってね!
〇おしまい。
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