〇作品概要説明
主要人物2人。約30分。深夜雨のバス停で死んだはずの同僚に出会う話。臆病な男が勇気を振り絞る英雄譚。あるいは、カタストロフィーの一歩手前。性別改変可。
〇登場人物
南雲千歳:幽霊あるいは村雨の幻覚。自称神。
村雨博樹:南雲の元同僚。大学の同期。根暗。
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作者:七枝
本文
〇雨の降る深夜のバス停にて。電柱の下、傘もささずに村雨がたたずんでいる。両腕で大きなボストンバッグを抱きかかえ、うつむいている。
SE:足音。
〇南雲登場。
南雲:雨、やみませんね。
村雨:………
南雲:傘ささないんですか?
村雨:……わ、わたしですか?
南雲:(馬鹿にしたように)あなた以外ここに誰かいますか?
村雨:……え……えっと。
南雲:風邪ひいちゃいますよ。傘がないなら、この先のコンビニで買ってきてはいかがでしょう?バスがくるまでまだ時間ありますし。
村雨:放っておいてください。
南雲:ん?
村雨:私にかまわないでください。
南雲:親切で言ってるのに。
村雨:…………
南雲:無視ですか。
村雨:…………
南雲:驚いたなぁ。あんた、それでも社会人ですか?あ。もしかして無職でした?すみません。
村雨:………やめてください。
南雲:(無視して)せめて返事するときぐらい人の顔みたらどうですか。小学生だってそれぐらいできますよ。
村雨:…………
南雲:地面に面白いものでもあるんですか?暗くてよくみえませんけど。それとも、なんかみえちゃう系のひと?
村雨:やめてって言ってるでしょう!
〇村雨、顔をあげて南雲をみる。
村雨:……え。な、なぐも?
南雲:お。ようやく顔あげたか。
村雨:どうして、ここに……いや、それよりお前、死んだはずじゃ……
南雲:あんたさぁ、質問に質問返すなって学校で学ばなかったの?
村雨:え、
南雲:まあいいや。とにかく傘買ってきなよ。みじめな顔がもっとみじめになってる。
村雨:……いい。
南雲:はあ?
村雨:放っておいてくれ。
南雲:いやいや。濡れ鼠のあんたの横で俺だけ傘さしてたら、やな感じでしょ。
村雨:ならどっかいけよ。
南雲:ここに用があるんだけど。え、もしかしてバス停が何のためにあるかご存じない?
村雨:うるさい!消えろ!俺の前にでてくんな!
〇村雨、腕をふりまわし南雲を押す。
南雲:うわ、怖~!
村雨:あれ、感触がある……?
南雲:暴力はやめろよ、暴力はさぁ。これだからオタクくん、ダメなんだよ。
村雨:なんで……
南雲:あ?
村雨:幻じゃ、ないのか。
南雲:何?俺のこと幻覚だとでも思ってたの?痛いねぇ!
村雨:だって、お前死んで……
南雲:お化け出た~って?そーいうの信じちゃってる感じ?
村雨:……お前、何だよ。
南雲:神様。
村雨:は?
南雲:聞こえなかった?神様っていったの。敬えよ、人類。
村雨:はあ!?
南雲:ふっ、あほづら。
〇南雲、村雨にでこぴんする。
村雨:痛っ
南雲:仕方ないから、俺の傘にいれてやるよ。泣いて感謝しろ。
村雨:やめろ、触るなっ
南雲:あ。でもあんま近く寄らないでね。あんた、ドブみたいな匂いする。
村雨:よ、寄るわけない。
南雲:そ。よかった。
村雨:…………
南雲:…………
村雨:……神様、って、
南雲:ん?
村雨:なんの冗談だよ。笑えない。
南雲:冗談じゃないけど。
村雨:信じられない。
南雲:は?村雨のくせに生意気だな。
村雨:ど、どうみたって南雲の顔だし。
南雲:特別美形にしたらこの顔になったんだよ。
村雨:口悪いし。
南雲:格下に気をつかってやる必要ある?
村雨:……俺のこと、知ってるし。
南雲:それは、あんたに用があるからだな。
村雨:…………なんで。
南雲:それ、そのボストンバック。
村雨:………
南雲:何入ってんの。
村雨:……関係ないだろ。
南雲:関係あるから聞いてんの。
村雨:…………ない。
南雲:声ちいさくて聞こえな~い。
村雨:関係ない、って言ってんだ!お前はもう死んでるんだから!!
〇間。
南雲:……いきなり大声だすなよ。
村雨:…………ごめん。
南雲:謝るならやるな。うっとおしい。
村雨:うん……
南雲:あのさ、話進まないから質問こたえてくれない?
村雨:…………
南雲:だんまりかよ。
村雨:……………
南雲:(舌打ち)あんた、都合悪くなるといつもそうだよな。
村雨:やっぱり、南雲でしょ。
南雲:は?
村雨:神様とか、噓。お前、南雲だろ。またそうやって俺をからかってんだ。
南雲:うそじゃないですぅ。神様ですぅ。
村雨:死んだってのも、嘘なんだろ。
南雲:………死んだよ。南雲千歳は死んだ。葬式来ただろ。
村雨:みてたのか?
南雲:空の上からね。ほら、俺神様だから。
村雨:あほか。
南雲:じゃあ、別にいいよ。なんでもいい。天使でも妖怪でも異星人でもあんたが信じられるやつにしてよ。
村雨:なんだそれ。
南雲:とにかくさ、俺はあんたを止めにきたわけ。
村雨:止めに……って何を。
南雲:わかってるくせに。
村雨:…………
南雲:(一呼吸おいて)あんたが言わないなら言うけど、そのカバン中に入ってるの、研究所から持ち出したアンプルだろ。中身は開発中のM-307ってとこか?そんで、今からそれもって警察やら頼れる古巣やらに行くつもりだ。違う?
村雨:……っ!
南雲:ビンゴだ。
村雨:ちがう。
南雲:いいや、当たってるね。俺にはわかる。
村雨:何様なんだよ。
南雲:神様。
村雨:(ためいき)
南雲:いいか?そんなことやっても無駄だから。いますぐ研究所に返してこい。
村雨:……なんで。
南雲:またそれ?何何なんで期なの?赤ちゃんなの?
村雨:だって。
南雲:だって、なに?
村雨:……………
南雲:言っとくけどな、お前の証拠隠滅方法はかなりお粗末だったからな。親会社なめすぎ。監視カメラもハードディスクもデータ消去したぐらいじゃいくらでも復旧できるし、すぐ追手がやってくる。どこ駆け込んでも無駄。大人しく帰って社畜やってろグズ。
村雨:……グズって。
南雲:そうだろ。
村雨:俺が、お前のいいなりだと思ってたら大間違いだからな。
南雲:あのなぁ、
村雨:見て見ぬふりとか、やだし……
南雲:そんな正義感あるやつだったっけ?
村雨:お前に俺の何がわかるんだよ。
南雲:大体わかるよ。いかにも万年便所飯ですって顔してるし。
村雨:そんなことしない!
南雲:似たようなことしてたじゃん。東棟の物置裏だっけ?
村雨:………便所じゃない。
南雲:厳密に言えばそうかもね。いつもどおりウジウジうずくまって「おれのせいじゃない」とかなんとか言ってればよかったのに。
村雨:もう、できない。
南雲:馬鹿だなぁ。
村雨:………お前のほうが、馬鹿だ。
南雲:はあ?
村雨:会社に逆らって、上司に意見して。だから殺されるんだ。馬鹿だ。
南雲:ころされた?なにそれ、オタクくん被害妄想激しすぎ。南雲千歳は事故死ですぅ。会社帰りに酔っ払ってたところをサラリーマンの車に跳ね飛ばされたんですぅ。製薬会社に勤めているエリートなら新聞ぐらいきちんと読めよな。
村雨:嘘だ。
南雲:嘘じゃないって。
村雨:南雲は、酒苦手だろ。
南雲:どこ情報よ。
村雨:見てればわかる。
南雲:ストーカー?
村雨:笹井課長も知ってた。
南雲:は?じゃあ飲みの度に飲まされたのって……くそ、あのパワハラクソ爺……
村雨:研究所の皆知ってた。だからあれは見せしめだ。職場の全員わかってる。
南雲:じゃあなんでそんなことすんの。
村雨:…………
南雲:せっかくの見せしめ、心に刻めよ。個人で組織と戦って勝てると思ってんの?
村雨:思ってない、けど。
南雲:けど、何?
村雨:警察なら……
南雲:手まわってるんじゃないの?南雲千歳が事故死じゃないって言うなら。しらんけど。
村雨:大学に相談したり、とか。
南雲:万年便所飯に頼れるようなツテあったんだ?おどろき~!
村雨:…………
南雲:悪いこと言わないから今まで通り知らんぷりしてろよ。んで、何年かして辞めて穏便に暮らせばいいだろ。なにがそこまであんたを急き立てる?
村雨:べつに。
南雲:別にじゃわかんないって。
村雨:わかってもらう必要ない。
南雲:そんな態度だからプロジェクト外されそうになるんだろ。
村雨:うっ
南雲:ま、今思えば外された方がマシだったな。こんな危ない橋渡ることになるんじゃ。
村雨:……ああ。
南雲:悪かったな、余計なことして。俺が誘わなきゃ何も知らずにいられたのに。
村雨:え?
南雲:……って、南雲千歳ならいうだろうな。
村雨:まだ続けるのか、その設定。
南雲:設定とかじゃないから。ガチだから。
村雨:だいたい何で神様。
南雲:神様のいうことなら、信じるんだろ。
村雨:何の話?
南雲:昔、言ってただろ。サワセン(沢村先生)の試験のとき。
村雨:?
南雲:覚えてないのかよ!大学時代だよ。ゼミであったろ、何の菌かあてるやつ!なかなか上手く培養できなくてさ~
村雨:ああ、お前がシャーレひっくり返したやつか。
南雲:な、南雲千歳がな。
村雨:南雲千歳が俺の一週間かけて育てたシャーレ、ぶっこわしたやつか。
南雲:そうだよ!そのぶっこわしたやつだよ!悪かったな!
村雨:思い出した。そのせいで俺だけ提出遅れたんだ。追加レポートまで書かされた……
南雲:その時お前言っただろ、「神様しか信じない」って。
村雨:そ、そんなこと言った?
南雲:言ったよ。せっかく俺がサワセンからヒントもぎとってきたのに、あんたこっちも見ないで「そんな情報いらない」って言ってさ。なんで?って、聞いたら「神様しか信じない」って言ったじゃん。
村雨:あ、ああ~……
南雲:なにその顔。
村雨:き、気にしないでください……
南雲:ふーん。……あ、もしかして、アレってオタクくん特有のやつ?漫画とかアニメのセリフ?
村雨:………
南雲:マジかよ。ダサ。
村雨:ぐっ!黒歴史……
南雲:なんだ。そーいうことね。村雨くんは、大学生にもなってアニメのセリフを引用して、人の好意を踏みにじったわけね。はいはい。
村雨:も、元はといえば南雲が悪いんだろ!
南雲:そーかもしれないけど、フツー正面切って「信じない」とか言う?こっちは詫び入れに来てるのにさぁ。
村雨:お、俺はわるくない。
南雲:あ~あ。気にしてたのな~バカバカしい。
村雨:……気にしてたのか?
南雲:まあね。それまで俺、わりと無条件で人に好かれてたから。
村雨:………
南雲:あからさまに引いた顔しないでよ。わかるでしょ?
村雨:なんでそんな自信満々なんだよ。
南雲:顔?
村雨:うげぇ。
南雲:あと親が金持ちで~器用で~運動神経もいいし。
村雨:喧嘩うってんのか。
南雲:そりゃあ、多少やっかみも受けたけどね。大体のやつは俺を敵にするより、味方にした方がいいのわかってたみたいだし?生育環境いいボンボンだったから、正面きって喧嘩売ってくるような馬鹿もいなかった。
村雨:馬鹿でわるかったな。
南雲:うん。新鮮で面白かった。
村雨:…………
南雲:村雨みてるとさぁ、どうしてそんなに馬鹿なのかなって不思議だったよ。無駄に敵つくるようなこと言うし、そのくせネガティブだし、どんくさくて金もない。
村雨:お、おれはお前が嫌いだった。
南雲:だろうね。俺は嫌いじゃなかった。
村雨:………そういうとこが嫌だったんだよ。
南雲:めんどくせぇな。
村雨:嫌いだ。嫌いだった。……でも、神様じゃなくても信じたよ。
南雲:それもなんかのセリフ?
村雨:馬鹿にすんな!
南雲:してないって。今はね。
〇間。
村雨:………南雲のデスク、片付けたから。
南雲:は?勝手に何してんの?いじめ?
村雨:課長に整理しろって言われたんだよ!……んで、これ、みつけて。
〇村雨、カバンを少し開けてUSBを取り出す。
南雲:あ~……USBね。新薬についてまとめたやつ。よくみつけたね。
村雨:あやうく捨てるとこだった。
南雲:あんた几帳面だからなぁ。ご丁寧にゴミの仕分けしてる姿が目に浮かぶよ。
村雨:市民の義務だろ。
南雲:テキトーにやりゃいいのに。それ、どこまで読んだ?
村雨:全部。
南雲:うわ、暇人。
村雨:暇じゃない!これでも毎日深夜残業してた!
南雲:それはあんたが鈍くさいせいだろ。え、職場で読んだの?
村雨:お前のMac借りた。きな臭かったから。
南雲:ああ、俺のリンゴちゃん。元気にしてる?
村雨:昨日も元気にクラッシュしてた。なんであんな中古品つかってんの?
南雲:かわいいだろ?
村雨:非合理的だ。
南雲:ってか、お前にもそれぐらいの危機管理能力あったのね。
村雨:俺をなんだと思ってるんだよ。
南雲:カモ。
村雨:かも?
南雲:鍋背負って、食材そろえてきた鴨かな。
村雨:おまえっ!
南雲:は~い、怒らない、怒らない。そんで?それ見てどうしたんだよ。
村雨:……わかるだろ。
南雲:ここに至るまでに誰かに相談したか、って聞いてんの。さすがのあんたも、新薬の盗みに入る前に、検証したり、証言の裏とったりはしたんだろ。
村雨:それは……まあ。ヒトの培養細胞で検証した。
南雲:結果は。
村雨:レポートのとおりだったよ。およそ18時間で発症、平均120時間で消滅。時間がなかったから、サンプルはそう多くないけど、USBの中に追加レポートをまとめてある。
南雲:ん。
村雨:反応薄いな。
南雲:元は俺のレポートだしね。
村雨:俺たちが携わっている製薬会社で、こんな作用がでる薬は製造予定にない。
南雲:そうだねぇ、表向きはなんだったっけ?脱毛薬だっけ?
村雨:こんなので脱毛しようとしたら、毛どころか、肌ごと無くなるぞ。
南雲:すっきりするね。
村雨:そんなこと言ってる場合か。
南雲:場合じゃないから、調査したんじゃん。財務諸表のとこは?ちゃんとみた?俺、がんばったのよ~経理の子、口説き落とすの大変だったんだから。
村雨:みた。なんだあの額。一生引きこもって暮らせるんじゃないか。
南雲:発想がオタクくんすぎて笑う。
村雨:……ともかく。うちの会社が怪しげな宗教団体に、多額の献金をしてるのはわかった。
南雲:献金じゃなくて寄付ね。慈善団体への寄付。ま、ちょーっと額がおかしいけど。
村雨:……つまり、
南雲:よろしくないことを計画してるってことだよねぇ、状況証拠的に。
村雨:そう、だよな。やっぱり。
南雲:あんたもそれを確信したから、こうやって馬鹿なことしてるんでしょ。
村雨:………ああ。
南雲:アンプル持ち出す前にさぁ、内部の誰かに相談したりしてないの?
村雨:してない。
南雲:へ?
村雨:なんだよ。
南雲:いやてっきりあんたのことだから、最初は一人で抱え込もうと無駄な努力と時間費やすけど、結局容量オーバーでヒスって、パニック起こして誰彼かまわず泣きついてんのかと。
村雨:人のことをなんだと……
南雲:オタクの便所飯野郎。
村雨:うるせぇ。……誰に泣きつけっていうんだよ。お前がいないのに。
南雲:………ふーん。へ~え。そう。
村雨:なんだよ。
南雲:いや、なに?俺って実は信頼されてたんだなぁって。
村雨:にやにやすんな!
南雲:いやあ。ははは。村雨くんってばツンデレなんだ?
村雨:ほ、他よりマシだってだけだ!あの研究所で元々知り合いだったのはお前だけだったから、だから!
南雲:うんうん。いいよ、言い訳しなくて。あ~そう。それで悩み悩んだ末に、こんな極端な行動にでてるわけね。納得。
村雨:……そうだよ。
南雲:保険はあんの?
村雨:保険?
南雲:警察……は無駄足だとして。大学行ってダメだったら、次どこに行くとか、研究所に戻るための言い訳とか、最悪の場合の逃走手段とか。
村雨:…………
南雲:ないってことね。オッケー。
村雨:まだ何も言ってない。
南雲:あるの?
村雨:ない、けど。
南雲:だろ。ヤケクソからの無手特攻おつかれさま~歴史に学べよ。俺という失敗みてなかったの?
村雨:みたから!こんなことやってんだろ!
〇間。
南雲:……いきなり大声出すなって言ったじゃん。
村雨:そうだよ、俺はオタクの便所飯だよ。いつも自己嫌悪でぐちゃぐちゃだし、要領悪くてどんくさいよ。怖いことはしたくないし、顔はよくないし、親は毒親だし、金も持ってない。でもこんなこと、間違ってるだろ。南雲千歳は、あんなことで死ぬはずないんだ。あんな風に死んでいいはずないんだよ……
南雲:……馬鹿だなぁ、あんた。
村雨:うるさい。
南雲:保険はなくても、覚悟はきめちゃったってことね。
村雨:(頷く)
南雲:そう。引く気はないってわけだ。
村雨:そうだよ。
南雲:う~わ~、めんどくせぇ。あんた頑固だからなぁ。
村雨:南雲があきらめた方が早い。
南雲:なんで俺が諦めるんだよ。俺の方が優秀だろうが。
村雨:死んでちゃ何もできないだろ。それとも墓から蘇る算段があるのか?
南雲:フランケンシュタインみたいに?
村雨:この場合だとせいぜいゾンビだ。
南雲:ゾンビか~…ゾンビはやだなぁ、せっかくの美貌が損なわれる。
村雨:言ってろ。
南雲:はは。
村雨:……南雲は、どうして告発しようとしたんだ?
南雲:自社がテロまがいのこと起こそうってのに、放っておくわけにはいかないでしょーよ。
村雨:それは、そうだけど。お前なら先に再就職先探してそうだから。
南雲:まあ泥船と心中はごめんだよね。
村雨:ほら、そう言うだろ。
南雲:あ~…うーん……これ言うのはちょっと気恥ずかしいんだけどさ、俺結婚を考えてる恋人がいて。
村雨:へぇ。
南雲:あからさまにテンション落ちるじゃん。
村雨:葬式にいたどの子だろうって記憶あさったら、それっぽいの多すぎて萎えた。
南雲:すみっこで号泣してたやつ。
村雨:どれだよ。該当件数多いんだよ。
南雲:モテ過ぎてすまない。
村雨:ゾンビになっちまえ。
南雲:はは。あ、でも現状「結婚を考えてる」っていうか「結婚を考えてた」になってるんだけど。
村雨:やめろ。
南雲:それで、その子が言うのね、いっしょになったらこうしたい~とかあれやりたい~とか。
村雨:あっそ。
南雲:もう少しあいづちがんばってくれる?
村雨:オタクはリア充嫌いなんだよ。
南雲:あんたから聞いてきたんだろ。
村雨:はい。
南雲:目が死んでる。
村雨:うるさいな。
南雲:そんで考えたのね、このままこの子と結婚して一緒に住んだら、そのうち子どもが生まれたりするのかな~って。その時、今のままのやり方でいいのかなぁってさ。
村雨:………ああ。
南雲:らしくないよな、とは思うんだけどね。自分の子どもに「こいつは肝心な時に逃げ出すやつだ」って思われたくないじゃん?カッコいい背中見せておきたくて。
村雨:それで現職のまま告発準備してた、と。
南雲:そう。そっちに夢中になりすぎて、恋人には3ヶ月前にフラれたけどね。
村雨:え。
南雲:腹立って、証拠引っさげて課長に八つ当たりしたら一発アウト。
村雨:はあ?
南雲:いやあ、俺としたことが見誤ったよね~
村雨:ばっっかだろ!
南雲:ははははは。
村雨:お前!俺がどんな思いで……!お前がそんな阿呆だと思わなかった!
南雲:いくら完璧な俺でもたまには失敗するわけよ。
村雨:その失敗で命とられちゃ世話ないだろ!
南雲:ホントにな。だからさ、村雨。
村雨:なんだよ!
南雲:こんな俺に、勝手な理想を押し付けるのやめてくれよ。
村雨:……なんだよ、それ。
南雲:お前の計画は無鉄砲もいいとこだ。絶対失敗する。
村雨:やってみなきゃ、わかんないだろ……
南雲:わかるよ。村雨、どんくさいし。
村雨:……………
南雲:機転きかないし、すぐへこむし、立ち直り遅いし、だまされやすいし。
村雨:ながい!
南雲:空気よめないし、不器用だし、
村雨:まだ続くのかよ!もういいよ!
南雲:だから、やめとけよ仇討ちなんて。今時ダサいって。
村雨:……やるよ。
南雲:村雨、
村雨:やるって、決めたんだ。悩む時期は終わったんだよ。
南雲:村雨ってば、
村雨:もうバス来るから。傘いらない。
南雲:きけよ、村雨!
村雨:聞いてる。聞いたうえでやるって決めたんだ。
南雲:殺されるんだぞ。
村雨:かもな。
南雲:お前がやる必要がどこにある!
村雨:ここに。俺が信じたあんたに。……ああ、そっか。そういう意味なら、あんたは俺の神様だったかもな。
SE:バスの停車音。
〇間。
南雲:……バス。
村雨:来たか、ここまでだ。
南雲:いいのか、これが引き返せるラストチャンスだぞ。
村雨:しつこい。さっさと墓に戻れよ。
南雲:足震えてるくせに。
村雨:さよなら、南雲。ありがとう。
〇間。
南雲:…………あーあ。
〇おわり。
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