台本/スケルトンキー(男1:女1)

〇作品概要説明

主要人物2人。ト書き含めて約5000字。刑事と元相棒の妹で墓参りする話。


〇登場人物

伊織:南条伊織。いおり。10~20代。女子大生。

鍵平:かぎひら。刑事。伊織の兄の相棒だった。


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作者:七枝


本文



〇墓地にて。

鍵平:伊織ちゃん。

伊織:鍵平さん、来たんですか。

鍵平:そりゃね。相棒の命日だから。

伊織:元、でしょ。鍵平さん、忙しいのに。

鍵平:俺にとってはいつまでも相棒だよ。今でも一緒に捜査してる。

伊織:?

鍵平:ときどき聞こえるんだ。「かぎひらさーん!おいていかないでくださぁい!」ってな。

伊織:はは、お兄ちゃん言いそう。

鍵平:いつも言ってたよ。結局自分が置いてったくせにな。

伊織:…………

鍵平:たばこ、供えてもいいかい?

伊織:もちろん。いまさら健康も何もないですし。

鍵平:それもそうか。


〇鍵平、伊織、墓前で手をあわせる。

しばしの間。

〇タイトルコール。

鍵平:「スケルトンキー」


伊織:……今日は、墓参りにきてくれてありがとうございます。兄も喜びます。

鍵平:いいんだよ。

伊織:なんて、お兄ちゃんはこんなところにいないでしょうけどね。

鍵平:………

伊織:お兄ちゃん、よく言ってました。「俺に墓はいらない。そんな金あるなら、たらふく美味い飯でも喰え」って。

鍵平:あいつがいいそうなことだ。

伊織:わかります?

鍵平:わかるよ。俺も同感だ。

伊織:ふふ。

鍵平:ん?どうしたんだい?

伊織:鍵平さんとおにいちゃん、年も見た目も全然ちがうのに、並んで座るとそっくりだったなぁって思い出して。

鍵平:……ああ。

伊織:きっと相性がよかったんでしょうね。

鍵平:そうだな。……そうだったと思う。

伊織:まるで親子みたいでした。

鍵平:やめてくれ。これでもまだ若いつもりなんだ。

伊織:あ、ごめんなさい。

鍵平:中年の悲哀が聞きたいかい?朝起きるとな、枕元にごっそり毛がおちてて……

伊織:いいですいいです。鍵平さんの秘密は鍵平さんで管理してください。

鍵平:つれないな。

伊織:私が釣れても困るだけでしょ?

鍵平:そんなことないさ。相棒の妹だ。大事にする。

伊織:口がうまいんだから。

鍵平:本当だよ。

伊織:嘘は嫌い。

鍵平:…………


間。


鍵平:えっと、最近どうだい?大学生活は充実してる?

伊織:ええ、まあ。そこそこ。

鍵平:サークルとか入った?

伊織:いえ、講義とるのに忙しくて。

鍵平:そっか、勉強熱心なんだね。

伊織:そんなことないです。

鍵平:そう?伊織ちゃん真面目だからな~

伊織:ありがとうございます。

鍵平:あ~……そうだ。彼氏とか、

伊織:いません。

鍵平:そう……

伊織:…………

鍵平:……………


長めの間。


伊織:ごめんなさい。気を遣ってもらってるのに。

鍵平:いや、そんな。

伊織:いいえ、わかってます。でも、元相棒の妹なんか構わなくていいんですよ。

鍵平:相棒の妹だから、とかじゃなくて純粋に伊織ちゃんがかわいくてさ。姪っ子みたいだ。

伊織:姪って。そんなこと言ってないで、鍵平さんもいい人みつけてください。

鍵平:モテないからなぁ。

伊織:それも嘘。綺麗な奥さんいたくせに。

鍵平:「いた」だよ。愛想つかされて逃げられてしまった。

伊織:仕事仕事で省みなかったからじゃないですか?

鍵平:そんな熱心にみえる?

伊織:みえます。ほら、クマついてる。

鍵平:これは……寝不足なだけだよ。

伊織:捜査が忙しいんじゃなくて?

鍵平:忙しいは忙しいけど、眠れないほどじゃない。

伊織:じゃあなぜ?

鍵平:歳のせいかな。

伊織:ほんとうに?

鍵平:ストレスの多い職場だしね。

伊織:眠れないのはいつも?

鍵平:ずいぶん突っ込んできいてくるね。そんなに俺の睡眠状況が気になる?

伊織:この時期だから、眠れないのかなって。

鍵平:…………

伊織:まだお兄ちゃんが死んだの、自分のせいだと思ってるのかなぁって。

鍵平:……それは、

伊織:…………こうしていると思い出しますね、3年前のあの日のこと。あの時もあなたと私、ふたりでした。

鍵平:………

伊織:葬式が終わってぼんやりしていた私に、急に頭をさげてきて。「あいつが死んだのは俺のせいだ、俺が現場に間に合わなかったからだ。俺があいつを殺したんだ」って。

鍵平:……すまなかったよ。あの時の君にいうことじゃなかった。

伊織:ほんとですよ。普通いいますか?兄が死んで傷心の妹に「ころした」なんて。

鍵平:うん。

伊織:許されたい為の謝罪ならしないでください。

鍵平:そのとおりだ。

伊織:…………

鍵平:君には、申し訳ない事をした。

伊織:……また、そうやって謝る。

鍵平:はは、ごめんね。

伊織:鍵平さんと会うといつもこう。だから会いたくなかったのに。

鍵平:そうだったのかい?傷つくな。

伊織:せめて時間ずらせばよかった。

鍵平:それは仕方ないよ。君も俺もこの時間に集まってしまうだろうさ。

伊織:………そうですね。どこにいても、この時間になると忘れられないです。また、お兄ちゃんから電話がかかってくるような気がして。

鍵平:伊織ちゃんが最後に電話を受け取ったんだったね。

伊織:ええ。

鍵平:なんて言ったんだい?

伊織:知ってるでしょう?

鍵平:君の口から聞きたいんだ。

伊織:……連続殺人鬼の正体がわかったからこれから会ってくるってことと、私なら大丈夫だって根拠のない慰めと、……あと、何かあったら鍵平さんを宜しくって。

鍵平:……ああ。ったく、普通なら逆だよなぁ、あいつ。

伊織:お兄ちゃん、本当に鍵平さんにそっくりでしたからね。

鍵平:どういう意味だ?

伊織:相棒がいなくなったら立てなくなるの、わかってたんじゃないかな。でも、私はそうじゃないから。

鍵平:…………

伊織:私は、お兄ちゃんいなくなって落ち込んでもひとりで立てるから。……そう、兄は信じてましたから。

鍵平:……君は強い子だね。

伊織:そうでもありませんよ。普通です。

鍵平:普通か。

伊織:そうです、普通です。

鍵平:最近の若者はしたたかなんだね。

伊織:鍵平さんとお兄ちゃんが弱っちいんですよ。あとその言い方おじさんくさいです。

鍵平:おじさんだしねぇ。

伊織:さっきは若いつもりって言ったくせに。

鍵平:はは。あいつの荷物は、まだ実家に?

伊織:ええ。三回忌が終わったら処分するって約束してたけど、おばあちゃんったら「まだいいだろう、まだいいだろう」ってずるずる。

鍵平:愛されてたんだなぁ、いいじゃないか少しくらい。

伊織:そうやって執着してると進めなくなりますよ。

鍵平:進んだって地獄さ。

伊織:進んでないから地獄なんじゃないですか。

鍵平:おっとぉ。耳が痛い。

伊織:中耳炎です?

鍵平:むしろ胃炎だな。

伊織:警察って労災おりなさそう。

鍵平:どういうイメージだよ、それは。ちゃんとおりるよ、公務員だぞぅ?

伊織:こうむいん……?

鍵平:若者の視線が痛い。

伊織:公務員なら公務員らしく、ぱりっとしたスーツ着たらどうですか?

鍵平:アイロンしてくれる奥さんいないから。

伊織:古いですよ、そのイメージ。

鍵平:どこかにおじさんの面倒みてくれる優しくてしっかりした女の子はいないかな~?

伊織:チラチラこっちをみないでください。うっとうしい。

鍵平:はは、こわいな。

伊織:……ごめんなさい、口が過ぎました。

鍵平:ううん、いいんだよ。

0:鍵平、伊織の頭をなでる。

鍵平:そうやってすぐ謝れるとこえらいね。さすがあいつの妹だ。

伊織:………あ。

鍵平:ん?どうした?

伊織:……いえ、その。久しぶりだな、って。鍵平さんに頭撫でられるの。

鍵平:おっと、ごめん。嫌だったよな。ごめんな~つい……

伊織:そんなことありません!

鍵平:…………

伊織:あの、ホントに嫌じゃないです。……むしろ、嬉しかったです。ずっと、あこがれてましたから。

鍵平:……俺に?

伊織:そうです。

鍵平:………

伊織:そんな驚いた顔しないでください。

鍵平:いやぁ、おじさん光栄だなぁ。まさか現役女子高生にモテてたとは。

伊織:……お兄ちゃんが生きていたころ、しょっちゅう貴方の話をきいてました。「鍵平さんは何も話してくれない」とか、「新米だって馬鹿にしてくる」とか。

鍵平:……はは。

伊織:「鍵平さんは目の付け所がちがう」とか「ああみえてやるときはやる人だ」とか。

鍵平:………

伊織:そうやって、休みの度に鍵平さんの話を聞いて、きらきらした兄の目をみて。で、実際に会ってみたら、平和ボケした女子高生の話もいちいち聞いてくれて、笑ってくれて。

鍵平:……そんなことで?

伊織:そんなことで、です。私、単純なんです。

鍵平:………いやぁ。

伊織:……もう。安心してください。昔のことですよ。今はどうとも思ってません。

鍵平:そうかい?残念だなぁ。

伊織:嘘。あからさまにホッとした顔しちゃって。

鍵平:まさかまさか。そんなことないよ。

伊織:ホント嘘つきなんだから。

鍵平:ははははは。


間。


伊織:………ふぅ。

鍵平:……つかれた?もう帰るかい?

伊織:ええ。なんだか、心の整理がつきました。帰ってお兄ちゃんの荷物、片づけようかな。

鍵平:手伝おうか?

伊織:いいですよ、そんな。

鍵平:……こんなこと伊織ちゃんに言うのダメなんだろうけどな、俺も気持ちの整理をつけたいんだ。

伊織:………

鍵平:もう3年たってるのにな。いい大人だし、こんな仕事だから区切りをつけなきゃいけないのはわかってるんだが………

伊織:犯人、つかまってないですもんね。

鍵平:………

伊織:迷宮入りってことで、捜査本部も解体されたんでしょう?

鍵平:………すまん。

伊織:いいんです。鍵平さんのせいじゃありません。

鍵平:いや、俺のせいなんだ。

伊織:…………

鍵平:俺のせいだ。俺が、あのとき犯人をつかまえられなかったから。

伊織:(ためいき)

鍵平:だから、伊織ちゃんやおばあさんはもっと俺のことを責めてもいいんだよ。警察のことも……犯人のことも。そうやって俺に優しい言葉をかけてくれなくていいんだ。

伊織:そう言われても、困ります。

鍵平:……だよな。ごめんな。


間。


伊織:仕方のない人ですね。……こきつかいますから、覚悟しててくださいね?

鍵平:!……ありがとう!

伊織:そこは「ありがとう」じゃないでしょう?「こきつかう」って言ってるのに。

鍵平:はは、おじさん現役大学生と一緒にいれるのが嬉しくてな~

伊織:またそうやって茶化して。

鍵平:はははは。

伊織:あ、そうだ。これあげます。

鍵平:……ん?なんだこれ。手帳?

伊織:はい。お兄ちゃんの手帳です。

鍵平:………え。

伊織:お兄ちゃんの捜査手帳。鍵平さんは、これが欲しかったんでしょう?

鍵平:………

伊織:これが欲しくて、手伝うって言ったんでしょう?

鍵平:……いおり、ちゃん。

伊織:はい。

鍵平:中、読んだかい?

伊織:……はい、って言ったらどうします?

鍵平:………

伊織:ポケットの中の携帯で「えらい人」に連絡をとります?それともこの階段で、手っ取り早く「事故」にあってもらいます?

鍵平:そんなこと!

伊織:……しない、ですよね。わかってます。

鍵平:………いつ、から。

伊織:……通夜のとき。

鍵平:そんな前から!?

伊織:おにいちゃんの机の上に、これみよがしに置かれていましたから。きっと、もしものときの保険をかけたつもりだったんでしょうね。

鍵平:どう、して……

伊織:………犯人、警視正の息子って本当ですか?

鍵平:……っ!

伊織:はは、知ってたんだ。そりゃそうだ。……そうですよね。

鍵平:……伊織ちゃん、俺は、

伊織:…………

鍵平:俺は……


長めの間。伊織、鍵平の言葉を待つが、鍵平は何も言えない。


伊織:恨んでいい、とか言わないでくださいね?

鍵平:!

伊織:そういうのやめたくて、それ渡したんですよ。

鍵平:…………

伊織:もう、前に進みたいんです、私。………薄情だと思いますか?

鍵平:俺には、できないことだ。

伊織:うん。そういうとこ好きでした。

鍵平:…………

伊織:その手帳、何に使ってもいいですよ。破り捨ててもいいし、再捜査の足掛かりにしてもいい。

鍵平:君に迷惑がかかる。

伊織:お兄ちゃんと貴方には散々迷惑かけられました。今更です。

鍵平:俺には君や君の家族を守る力はない。俺は自分の家族も守れなかった男だ。

伊織:………そんなの、どうでもいい。

鍵平:伊織ちゃん、

伊織:どうでもいい!貴方が今どうしたいかって話をしたいんですよ、私は!もうやめてくださいそんな目で私をみるの!お兄ちゃんと私を重ねるのはやめてください!私はお兄ちゃんじゃない!!

鍵平:………すまない。

伊織:~~っ!また、そうやって……!

鍵平:すまない。俺のせいだ……すまない。

〇鍵平、頭をさげる。

伊織:………(長い溜息)

鍵平:…………

伊織:顔、あげてください。

鍵平:あ、ああ。

伊織:とにかく、その手帳あげますから。煮るなり焼くなり好きにしてください。それはもうお兄ちゃんの秘密じゃなくて、鍵平さんの秘密です。

鍵平:おれの、秘密……

伊織:ええ。だから、鍵平さんが管理してください。

鍵平:きみは、結果を知りたくないのかい?たった二人の家族だったろ?

伊織:私にはおばあちゃんがいますから。……お兄ちゃんが戻ってくるわけじゃないもの。

鍵平:…………はは、つれないな。

伊織:釣ってくれなかったのは、鍵平さんの方じゃないですか。

鍵平:……もう行くよ。またね、伊織ちゃん。

伊織:はい。……さようなら、鍵平さん。


終了。

七枝の。

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