台本/雑草の舌(女2)

〇作品概要説明。

主要人物2人。ト書き含めて約7000字。ある日、友人の舌に苔が生えた。難病友情もの。ちょっとファンタジー。


〇登場人物

朽木:苔が生えるほう。

佐倉:友人。


〇ご利用前に注意事項の確認をよろしくお願いいたします。

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作者:七枝


本文




〇:本文ここから。Mはモノローグ。

佐倉:(M)その種が、いつ根付いたのか私は知らない。

朽木:(M)最初は小さな芽だった。誰も気づかない、いつ踏みにじられるかもしれない芽生えだった。

佐倉:(M)なのに、誰も気づかぬ間に

朽木:(M)だんだん大きく、どんどん強く

佐倉:(M)人知れず、育っていって

朽木:(M)そうしてある日唐突に気づいたのだ。

佐倉:(M)君の庭に、

朽木:(M)雑草が生えている。


   間をあけて。

〇場面転換。放課後の教室にて。

朽木:ほら、みてよ。

佐倉:……なにそれ。

朽木:なんか、三日前くらいからこうでさ。

佐倉:はぁ?

朽木:えへへ。

佐倉:(M)目の前でまぬけに笑う朽木の舌には、奥の方から先端にかけて緑色に染まっていった。染色した、というよりはまるでコケでも生えたような鮮やかな緑だ。

朽木:さわってみる?

佐倉:やだよ。ばっちぃ。

朽木:そういわずにさぁ。

佐倉:やだって。うつったらどうすんの。

朽木:触ったくらいでうつんないよ。歯磨きちゃんとしてるし。

佐倉:そういう問題じゃないでしょ。

朽木:私と佐倉の仲じゃん。

〇朽木、佐倉の手をつかむ。

佐倉:ひゃっ!

佐倉:やだ、なんであんたそんな手冷たいの?

朽木:え~?

佐倉:離してよ。

朽木:も~、つめたい~!

佐倉:冷たいのはあんたでしょ、ってかはなせ!

朽木:あっ

〇佐倉、朽木を振り切る。

朽木:そんな拒否ることないじゃん……

佐倉:今いつだと思ってんの?冬よ、冬。近づくな。しっしっ

朽木:ひどい。

佐倉:当然の反応です。

朽木:ちぇっ

佐倉:………それで、

朽木:ん?

佐倉:病院行ったの?

朽木:行ってない。

佐倉:行きなよ。あきらかにヤバいじゃん。

朽木:ヤバい、かなぁ。

佐倉:ヤバいヤバい。

朽木:ん~……

佐倉:なによ。嫌なの?

朽木:注射きらい。

佐倉:ガキか。

朽木:あと消毒薬の匂いもきらい。医者も嫌い。もうあの空間が嫌い。

佐倉:ふーん。

朽木:ついてきてくれる?

佐倉:ママに頼みな。

朽木:Boo!

佐倉:ブーイングしてもだーめ。

朽木:はーい。

佐倉:ってかさ、ひょっとしたら、あんた実はもう死んでたりして。

朽木:えっ

佐倉:体温つめたいし。カビみたいなの生えてるし……ゾンビなんじゃない?

朽木:ひどい!

佐倉:おぼえない?階段から落ちたりとかしてない?

朽木:してないよ!それジョークのつもり?笑えないんですけど。

佐倉:だってさ~あるでしょ、映画とかでそーいうの。

朽木:映画は映画。

佐倉:そっか。そうよね。

朽木:佐倉ってときどき真顔で変なこというね。現実見た方がいいよ?ゾンビなんているわけないじゃん。

佐倉:いるよ。ムーに書いてた。

朽木:ムーって!あのオカルト雑誌の?はははははっ

佐倉:なんで笑うの。

朽木:あんたアレ真面目に読んでるの?馬鹿じゃん?

佐倉:馬鹿っていう方が馬鹿なんだからな、馬鹿!

朽木:小学生かよ~!

佐倉:(M)それから、馬鹿笑いをする朽木を止めるのに必死で、私は結局彼女がどうしてそうなったのか聞くのを忘れた。聞いたところで、もうとっくに手遅れだったかもしれないのだけど。

   場面転換。

〇数日後。放課後の教室。

佐倉:朽木~帰りマック寄ろ。

朽木:ん………

佐倉:朽木?

朽木:あ、ああ。

佐倉:眠いの?さいきんずっと眠そうだね。

朽木:あ~……バイト初めて、

佐倉:ダウト。

朽木:新作ゲームが、

佐倉:あんたからゲームの話聞いたことない。

朽木:イケメンスーパーダーリンとの熱い夜が、

佐倉:アホなの?

朽木:ん~…じゃぁえっと(あくびする)

佐倉:やだ、話の途中で寝ないでよ。とりあえずいこ。ここ寒いでしょ。

朽木:だねぇ……日当たりも悪いし。

佐倉:日当たり?

朽木:……むにゃ。

佐倉:ねーるーなー!ったくもう……

〇佐倉、朽木をひきずって中庭のベンチまで移動する。

佐倉:あ~!つかれた!

朽木:なにつかれてんの~?歳?

佐倉:あんたのせいだっての!外に出てきた途端元気になりやがって……!

朽木:や~!天気いいねぇ!よく晴れてる!

佐倉:人の話きけ?

朽木:あ、自動販売機あるじゃ~ん!水かお、水。

佐倉:朽木ってば!

朽木:お金たりたかな、っと。

〇朽木立て続けにコインを投入する。

佐倉:……?あんたなんでそんなに……?

朽木:え?

佐倉:飲むの水でしょ?

朽木:そうだけど。

佐倉:何本買う気?

朽木:あ~……

佐倉:朽木?

〇朽木、自動販売機から水を取り出す。

朽木:あるだけ、かな?

佐倉:……………

朽木:(水を飲んで)ぷはー!生き返る~

佐倉:………あんた、

朽木:なに?佐倉も飲む?

佐倉:………

朽木:佐倉?

佐倉:……や、私はいい。

朽木:いいの?

佐倉:うん……

朽木:(水をのむ)

佐倉:よく、飲むね……

朽木:ん~なんか最近喉が渇いて仕方ないんだよね。

佐倉:病院いったら?

朽木:なんて?喉が渇いてしかたないんです~って?

佐倉:そう。

朽木:やだよ。頭おかしい人みたいじゃん。

佐倉:でもさぁ。甲状腺がどうの、とかホルモンのなんちゃらとかいう病気かもしれないじゃない。

朽木:そうねぇ。

佐倉:いきなさいよ。

朽木:ん~……

佐倉:……こないだのカビなおったの?

朽木:カビ違う。

佐倉:なおったの?

朽木:んっと、

佐倉:舌みせて。

朽木:え、えええ?佐倉ちゃん目がこわいよ~?

佐倉:みせろ。

朽木:ん。んん……

〇朽木、しぶしぶ舌をみせる。

佐倉:(息をのむ)なにこれ……

朽木:なんか草?みたいな?

佐倉:コケじゃん。

朽木:それっぽいよねぇ。

佐倉:病院いきなよ。

朽木:やだ。

佐倉:ついていくから。

朽木:佐倉、おおげさ。

佐倉:大げさじゃない。

朽木:…………

佐倉:朽木。

朽木:じゃあ、あと3日。3日様子見させてよ。

佐倉:…………3日たったら行くのね?

朽木:治ってなかったらね。

佐倉:約束して。

朽木:……ん。

佐倉:(M)そのとき、朽木は確かに頷いてくれたけど、本当はどう思っていたのだろう。三日後、私が尋ねた時はただ一言「ストレスだったみたい」と言ったきり、彼女はマスクで口を隠してしまった。



朽木:ごめんね、佐倉。



   場面転換。

〇学校、花壇前にて。

朽木:さーくら。

佐倉:朽木。

朽木:なにしてんの?

佐倉:みてわかんない?

朽木:花壇に水やってる?

佐倉:そう。

朽木:佐倉って園芸部だっけ?

佐倉:違う。

朽木:じゃあ、なんでそんなことやってんの?

佐倉:昨日、ムー読んでさ、

朽木:またムーか!

佐倉:いいから聞け。ムーでね、このまま温暖化が進めば砂漠が広がって10年後にはすべての生命が死に絶える!って書いてて、

朽木:10年はいくらなんでも早すぎ。

佐倉:いいの!そういうとこがムーの魅力なの!

朽木:それで温暖化防止対策に励んでるわけだ?佐倉ちゃんは。

佐倉:悪い?

朽木:悪くはないけど、影響受けすぎて笑う。

佐倉:ふん。

朽木:ね、それ終わったら一緒に帰ろうよ。こないだいい喫茶店みつけてさ。

佐倉:………

朽木:無視すんな。

佐倉:ひゃっ!つめたっ

朽木:ひひっ、まいったか。

佐倉:………あんたホント手つめたいよね。

朽木:ん?ああ。手冷たい人は心が温かいとかいうからそれじゃない?

佐倉:ほざけ。

朽木:口悪ぅ。

佐倉:……本当に大丈夫なんだよね?病院行ったんだよね?

朽木:あ~……?うん。

佐倉:朽木?

朽木:行った行った。

佐倉:……ほんとに?

朽木:ほんとだってば。信じてよ、佐倉。

佐倉:ん………

   少しの間。

朽木:佐倉ちゃんはさ、

佐倉:ん?

朽木:どんな花が好き?

佐倉:ん~……綺麗な奴。蓮とか。

朽木:蓮、蓮かぁ~……他には?

佐倉:何、急に。

朽木:いいからいいから。答えてみ。

佐倉:あ~…桔梗とか?椿とか。

朽木:ふんふん。色味が綺麗なやつだね。

佐倉:そうだね~みてて楽しいから。

朽木:ほかには?

佐倉:……桜、とか。

朽木:ははっ、なんで?名前が一緒だから?

佐倉:わ、悪い?

朽木:ううん。いーんじゃない?

佐倉:絶対馬鹿にしてるでしょ……

朽木:してないって。じゃあ、もしもさプレゼントされたら嬉しい?

佐倉:プレゼント?花を?

朽木:うん。

佐倉:ん~……嬉しいっちゃ嬉しいけど。

朽木:クサ過ぎ?

佐倉:そうじゃなくて。なんていうか私、切り花より生きてる花の方が好きだから。

朽木:……へぇ~?

佐倉:なによ。にやにやして。

朽木:や?佐倉は優しいなぁって思ってさ。

佐倉:うるさいなぁ。

朽木:ほんとだってば。からかってないって。

佐倉:………別に、私だってすべての花が好きとか、命はすばらしいなんてこと言わないけど。

佐倉:こういう植物って、手入れしなきゃ咲かないじゃん?そういう、なんていうか、人の想いをうけて生きてるものはさ、そのままの形が一番きれいじゃないかっていうか……

朽木:…………

佐倉:あ~もうわかんない!やっぱやめ!忘れて!

朽木:なんで?

佐倉:恥ずかしすぎる!

朽木:いいと思うよ?私そーいうの好き。

佐倉:いいから、励ましてくれなくて!

朽木:励ましじゃないって。好きだよ。

佐倉:………うぅ

朽木:佐倉のそーいうとこ好き。

佐倉:恥ずかしいやつ……

朽木:へへっ。人の想いを受けて生きる花、かぁ……それが雑草でも、佐倉は受け取ってくれる?

佐倉:え?

朽木:いつか贈るね。受け取ってくれなくてもいーよ。

佐倉:あ、いや。なんで?私なんかしたっけ?

朽木:なんででしょー?

佐倉:(M)えへへ、と朽木は笑った。マスクの向こうで、楽しそうに。そしてそれが、元気な朽木を見た、最後の日になった。

   間。

〇朽木の家。

   呼び鈴の音。

佐倉:あの、すみません。ここ朽木さんのおうちであってますか?……あ、はい。私クラスメートの佐倉っていいます。……はい。そうです、お見舞いで……え、いいんですか?……はい。ありがとうございます。お邪魔します。

佐倉:………

   一拍おいて。

朽木:きたんだ、佐倉。

佐倉:………きたよ。

朽木:……みられちゃったなぁ。

佐倉:…………どうして。

朽木:えへへ。

佐倉:(M)かすれた声で、朽木は笑った。久しぶりみた、マスクのない彼女の笑顔だった。

朽木:あ、ごめん。キモかった?うつらないから安心していいよ。

佐倉:そんなの気にしてない。

朽木:や、大丈夫。わかってるから。

佐倉:気にしてない!

朽木:……そ?

佐倉:(M)ならいいんだけど。と口を開けた彼女の舌は、びっしりとコケが生えていた。舌だけではない。腕にも足にも、今は隠している腹部だって。きっとコケが……木の芽が生えているのだろう。……そういう病気だと、担任から聞いた。

朽木:じゃあ触る?

佐倉:なんでそうなるの。

朽木:ほかの子がそうだったから。百万人に一人の奇病だってさ。すごくね?

佐倉:………

朽木:なにその顔。不細工な顔しちゃって。

佐倉:………しぬって、ほんと?

朽木:さぁ?

佐倉:さぁって!

朽木:だってわかんないんだもん~サンプルケースが少ないからさぁ。佐倉はどうだと思う?死ぬと思う?生き残れると思う?

佐倉:クイズにすんな馬鹿!

朽木:シリアスに言えないでしょ、こんなこと。

佐倉:……っ!

朽木:あ~あ~泣かないでよ、も~……これだからバレたくなかったんだよ~

佐倉:だって、だってぇ……

朽木:ほら、触ってみなよ。あんたの好きなオカルトだよ。神秘だよ。リアルムーだよ。今しかないよ、さわれるの。

佐倉:………

〇佐倉、朽木の手にそっと触れる。

佐倉:……冷たい。

朽木:ゾンビみたいでしょ。

佐倉:不吉なこというな!

朽木:あんたが前言ったんじゃん。

佐倉:あれは冗談で……

朽木:わかってるよ。でも私はアンタの言ったこと全部覚えてるからね、って。それだけ。

佐倉:……なんで?

朽木:……なんででしょー?

佐倉:…………

佐倉:(M)冷たい。まるで氷のようだ。そして人間の皮膚と思えないほど硬い。この中では確かに血が流れ、人の肉があるはずなのに、感触だけだとそれはまるで何十年も生きた大木のように感じた。

朽木:佐倉はあったかいね。おひさまみたいだ。

佐倉:……キザ。

朽木:へへ。これさぁ、寄生性なんちゃら相応植物っていうんだけど。

佐倉:なんちゃらってなに。

朽木:わかんない。聞いてなかった。

佐倉:自分の病気でしょ!?

朽木:名前なんて飾りだよ、飾り。

佐倉:そうは思わないけど!?

朽木:いいから聞いて、この植物ね、花つけるんだって。

佐倉:……宿主の命を吸って、でしょ?

朽木:あれ、知ってたんだ?ムーに書いてた?

佐倉:茶化すな!

朽木:へへ。……花咲いたらね、佐倉にあげる。

佐倉:……やだ。

朽木:病人の体から生えた花なんてキモイ?うつんないから受け取ってよ。

佐倉:花咲いたらアンタ死ぬんでしょ!?そんなのやだ!

朽木:………

佐倉:なんで何もいってくれなかったの?なんで笑顔で死んだあとの話すんの?やめてよそんなの!死ぬとかいうな、死んでも生き残れ!

朽木:んな、無茶苦茶な……

佐倉:無茶苦茶でもなんでも!!生にかじりつけよ馬鹿!

朽木:…………

佐倉:美談にすんな、ばか……

〇佐倉、泣きじゃくる。

朽木:……泣かないで、佐倉。

佐倉:やだ、死なないで朽木。

朽木:…………ははっ

佐倉:………?

朽木:………わかった。佐倉がそういうなら。

佐倉:ホント?

朽木:うん。

佐倉:本当の本当だよね?

朽木:うん。生きるよ、私。だからね、

朽木:花が咲いたら受け取ってね、佐倉。

   間。

   場面転換。

佐倉:(M)それから、朽木が退学したという知らせを受け取ったのは、2ヶ月後のことだった。

佐倉:(M)最初のころは熱心に見舞いに通っていた私も、病が長期化するにしたがって、それもできなくなった。「あそこの娘は伝染性の奇病にかかってる」どこからかそんな噂が町に広がり、朽木の家族に面会謝絶にされたからだ。

佐倉:(M)チャットアプリで連絡を取り合ってはいたけど、朽木の言う「大丈夫」なんて信用できない。でも、他に聞けることもない。

佐倉:(M)ままならない日常がつづいた、そんな時だった。



   電話の音。

佐倉:はい、もしもし。

朽木:……さくら?

佐倉:朽木!?あんたこんな時間に…!

朽木:しーっ、声大きいよ。ここ病院だから。

佐倉:あ、ごめん……

朽木:ふふ。いーよ。でもここからは小声でね。

佐倉:あ、うん。……それで、こんな時間にどうしたの?

朽木:んっと、ちょっとお願いがあって。

佐倉:なに?

朽木:……いまから、病院にきてくれない?

佐倉:え。

朽木:難しい?ダメだったら、

佐倉:行く!行くから、電話切らないで!

佐倉:(M)嫌な胸騒ぎがした。夜中に突然電話してきて「病院にきてくれ」だなんてそんなの。

朽木:急がなくていいって~ゆっくりきて。

佐倉:でも!……だって、

朽木:そういうんじゃないから。みせたいものがあってね。……ゆっくりきてよ。

佐倉:(M)今度は止める間もなく、ぶつりと電話が切れた。かけなおそうとして、あちらは病棟だったことに気づき、思い直す。とにかく、急いで病院に向かわなきゃ。

佐倉:(M)自転車に飛び乗ると、冬の風が身を切るように鋭く刺さった。

   間をあけて。

佐倉:(激しい息遣い)

   電話の音。

佐倉:もしもし!?

〇電話先の朽木、やや息が荒い。

朽木:はは、佐倉はしってきたの?

佐倉:着いたよ!どうやって病院に入ればいい?

朽木:裏の従業員用通用口つかって。んで、右にまがってまっすぐ行けば中庭までいけるから。

佐倉:中庭……?

朽木:……うん。……ぁっ

佐倉:朽木?あんたいま病室じゃないの!?

朽木:ん~…病室だと声、響くから。……ね、中庭まで来てよ。白い棟の隣の大きな木の下まで来て。

佐倉:……わ、わかった。

朽木:ゆっくりで、いいからね。

佐倉:………っ!

佐倉:(M)柔らかな朽木の声に、疲れと押し殺した呻きが滲んでいた。うっすらと聞こえる風の音。木々がこすれあうような音。彼女は外にいるんだろうか。……どうして?

   間。

佐倉:……朽木、きたよ!どこ?

朽木:……はぁ、はぁ、

佐倉:朽木?

朽木:ゆっくりきてって言ったじゃん。佐倉はせっかちだなぁ……

佐倉:……え?なに?

朽木:でも、どうにか間に合った。上みて。

佐倉:……上?いったいなに、が……

朽木:ほら、夜があけるよ。

佐倉:(M)東の空が、うっすらと赤くにじんで、ビルの切れ端から朝日がこぼれみちる。その隙間を縫うように、小さな黒い影が背後の建物から伸びていた。あれは、手、だろうか?またたきの後に、影が小さく揺らぐ。すると、そこから、なにかが、こぼれてー……

佐倉:……!

朽木:花、咲いたんだ。佐倉にあげる。

佐倉:これ、桜の花びら……!

朽木:んーん。ちがうよ。

佐倉:……え?

朽木:ちがうよ。これは桜じゃない。

佐倉:でも、どうみたって!

朽木:これはね、雑草だよ。雑草の花が咲いたんだ。

佐倉:ざっそう……?

朽木:そう。

佐倉:雑草じゃなきゃ、だめなの……?

朽木:ダメとかじゃなくて、そうなの。雑草なの。どこにでもあるどーでもいい花。

佐倉:そんな言い方…!

朽木:……へへ、ごめんね。でも、ちゃんと咲いたよって知らせたくて。

佐倉:………

朽木:迷惑かな、って思ったんだけど。ちゃんと生きてるよって伝えたくなっちゃった。

佐倉:………きれいだよ。

朽木:………

佐倉:朽木が雑草だっていっても。桜じゃなくても。……きれいだよ。この花は、私の好きな花だよ。

朽木:……そっか。

佐倉:うん。

朽木:………ありがとう、佐倉。

佐倉:(M)顔が見たい、とは言えなかった。その声がとても湿っていたので。私はただ落ちてくる花びらをひとつひとつ拾い、彼女も見ているだろう空を見上げた。

佐倉:(M)いつまでもいつまでも、花を抱いていた。

おわり。

七枝の。

声劇台本おいてます。 台本をご利用の際は、注意事項の確認をお願いします。

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